【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

更新日:2023.9.8

遺留分とは、相続人の生活を保障するために設けられた、相続財産の一定額を必ず受け取れる制度です。すべての相続人ではなく、特定の相続人のみが対象となります。

遺留分に関するトラブルを回避するためには、遺留分の概要やトラブルの対処法に関して正しく理解する必要があります。また、遺留分の侵害を受けた際は、当事者のみで解決しようとせず、専門家に相談・サポートを依頼するのが確実です。

本記事では遺留分の割合や計算方法、遺留分が侵害された際の手続きについて、わかりやすく解説します。

遺留分とは

遺留分とは特定の相続人に対して、法律によって保障されている相続財産の取り分です。残された遺族の生活保障のために設けられた制度といえます。

遺留分は相続でもっとも優先されるものであり、遺言による侵害もされません。遺言によって遺留分よりも少ない相続財産しか得られなかった場合、遺留分の侵害額を請求する権利を得ます。

法定相続分との違い

法定相続分とは、民法によって定められている法定相続人ごとの相続割合です。遺言書による相続方法・相続割合の指定がない場合、法定相続分の考えを基礎に遺産分割協議を進めるのが一般的です。

法定相続分には、配偶者や子、直系尊属に加え、兄弟姉妹にも相続の権利が認められています。また、法定相続分には順位が存在し、もっとも順位が高い者のみが相続の権利を有します。

一方で、遺留分は特定の相続人に最低限保障された相続割合です。遺言や生前贈与などによって相続額が小さくなってしまう場合に行使できる権利といえます。また、遺留分は兄弟姉妹には保障されておらず、順位の考え方も存在しません。

法定相続分は遺産分割協議において必要となるルール、遺留分は不公平な遺贈や贈与があった際に必要となる制度です。

遺留分が認められる相続人の範囲と割合(親族・兄弟)

遺留分の考え方は、おおむね法定相続分と似ています。遺留分が認められる相続人の範囲や割合について解説します。

配偶者・子(代襲相続人も含む)

相続人が配偶者または子(代襲相続人も含む)の場合、遺産総額の2分の1が総体的な遺留分です。さらに人数によって分割を行います。

相続人が配偶者と子1人の場合を例にします。この遺留分をさらに2人で分割するため、それぞれ遺産総額の4分の1が遺留分です。

相続人が子のみの場合は、遺産総額の2分の1を相続人全員で分割します。

相続人が配偶者と子が複数人の場合、配偶者の遺留分が遺産総額の4分の1となり、残り4分の1部分を子の人数で分割します。

直系尊属(父母・祖父母)

相続人が直系尊属のみの場合、遺留分は遺産総額の3分の1です。配偶者と直系尊属の場合、配偶者の遺留分が遺産総額の3分の1、直系尊属は遺産総額の6分の1となります。

兄弟姉妹は遺留分なし

兄弟姉妹は法定相続人ではありますが、遺留分を有しません。

遺留分の計算方法

遺留分の計算方法および計算例について解説します。配偶者以外の相続人が複数人いるケースについていくつかの例を取り上げました。

すべての計算式において、計算に用いる遺産総額は9,000万円とします。

  1. 配偶者と子が2名の場合:配偶者の遺留分は遺産総額の4分の1です。子は遺産総額の4分の1を2人で分割するため、それぞれ遺産総額全体8分の1遺留分としての権利になります。したがってそれぞれの遺留分は以下のとおりです。
    配偶者:9,000万円÷4=2,250万円
    子1人あたり:9,000万円÷8=1,125万円
  2. 配偶者と子が3名の場合:配偶者の遺留分は子の人数に関係なく、遺産総額の4分の1です。子は遺産総額の4分の1を3名で分割するため、1人の遺留分は遺産総額の12分の1となります
    配偶者:9,000万円÷4=2,250万円
    子1人あたり:9,000万円÷12=750万円
  3. 配偶者と父母2人の場合:配偶者と直系尊属の場合、配偶者の遺留分は遺産総額の3分の1です。父母は遺産総額全体の6分の1を2人で分割、すなわち1人につき遺産総額全体の12分の1が遺留分となります
    配偶者:9,000万円÷3=3,000万円
    父母1人あたり:9,000万円÷12=750万円
  4. 父母2人の場合:配偶者がおらず父母2人が相続人の場合、2人合わせて遺産総額の3分の1が遺留分となります
    父母1人あたり:9,000万円÷6=1,500万円
  5. 配偶者と兄弟姉妹が複数人の場合:配偶者が遺産総額の2分の1を遺留分として有します。兄弟姉妹に遺留分の権利はないため、人数による変動はありません
    配偶者:9,000万円÷2=4,500万円

なお、原則として遺留分の計算では、相続財産に1年以内の贈与財産の価額を足した金額を遺産総額として用います。

遺留分が侵害されるケース

遺留分は不公平な遺言書や遺贈により、侵害されるという考え方をします。遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求により、侵害された額を限度として贈与や遺贈を受けた分の金銭の返還請求が可能です。

遺留分が侵害される主なケースとして、以下の例が挙げられます。

  • 遺贈
  • 死因贈与
  • 生前贈与

なお遺留分には時効が存在し、遺留分侵害額請求権を行使できる期間が限られているため注意が必要です。遺留分が侵害されるケースおよび遺留分の時効について解説します。

遺贈

遺贈とは遺言による遺産の贈与です。遺言書の内容に従って行う相続財産の贈与は、厳密には相続ではなく遺贈という呼び方を行います。

不公平な内容の遺言による遺贈は、遺留分侵害としてもっとも多く見られる原因です。

死因贈与

死因贈与とは、死亡により効力が発生する贈与です。

遺贈との大きな違いとして、贈与契約の有無が挙げられます。贈与は贈与を行う人・贈与を受ける人の間で契約が必要です。遺贈は被相続人の遺言書による一方的な財産移転ですが、死因贈与は両者の合意が前提となります。

死因贈与によって遺留分を侵害された場合も、遺留分侵害額を請求する権利があります。

生前贈与

生前贈与は被相続人の生前に行われる贈与です。贈与税の110万円の基礎控除制度を活用し、生前から少しずつ贈与を進めるという、相続税対策の手段として多く用いられます。

生前贈与は、原則として相続開始前1年間に行われたものが遺留分請求の対象となります。ただし、遺留分の侵害を知りながら行われた贈与の場合、この限りではありません。贈与をした被相続人と贈与を受けた人、それぞれが遺留分の侵害を認識していた生前贈与については、1年より前のものでも遺留分の請求対象になります。

また、生前贈与が特別受益に該当する場合は、相続開始前10年以内の贈与について遺留分侵害額請求できます。特別受益とは、複数の相続人のうち、一部の相続人のみが被相続人から受け取った特別な利益です。生計の資本もしくは婚姻・養子縁組のための贈与が該当します。

なお、扶養義務の範囲であれば、生計の資本であっても特別受益に該当しません。ほかにも、被相続人の有する財産額や被相続人・相続人の関係性など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断する必要があります。

遺留分の時効

遺留分は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈を知ってから1年が時効です。相続開始や遺留分の侵害を知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると、遺留分の請求ができなくなってしまいます。

このように、遺留分侵害額請求権を行使できる期間は短いため、早めの対応が必要です。

なお、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に請求の意思表示を行うことで、遺留分の時効を止めることができます。

遺留分侵害額請求の方法

遺留分侵害額の請求は以下の流れで進めるのが一般的です。

  1. 相続人間での話し合い
  2. 遺留分侵害額の請求調停
  3. 遺留分侵害額請求訴訟

それぞれの工程について詳しく解説します。

相続人間での話し合い

まずは、相続人同士で話し合いを行います。電話やメールなどでの話し合いも可能ではありますが、請求の意思表示を証拠として残すためには、内容証明郵便での請求書送付が確実です。

当事者同士の話し合いで穏便に解決できれば合意書を作成し、合意の内容に沿って遺留分侵害額の支払いを受けます。

なお、当事者同士では話がまとまらないことも少なくありません。その場合は代理人として、弁護士等を立てる必要があります。

遺留分侵害額の請求調停

当事者同士の話し合いでまとまらない場合は、遺留分侵害額の請求調停が必要です。相手の住所地を管轄する家庭裁判所もしくは当事者同士の合意で決める家庭裁判所に申し立てを行います。

遺留分侵害額の請求調停を利用すると、家庭裁判所の調停委員が間に入るようになります。

申立てには収入印紙1,200円分、連絡用の郵便切手、申立書及びそのコピーや添付書類が必要です。

遺留分侵害額請求訴訟

調停でもまとまらない場合は、相手に対して遺留分侵害額請求の訴訟を起こすことになります。調停には当事者である相手の合意が必要ですが、訴訟には合意を得る必要がありません。

訴訟を起こすためには、遺留分の侵害を証明する客観的な証拠が必要です。訴訟に際して弁護士への依頼も必要であるため、時間も費用もかかってしまいます。

遺留分は放棄できる(遺留分放棄)

遺留分は最低限の遺産相続を保証するための制度ですが、遺留分を優先させると、結果として遺言書とは異なる相続になるケースが有り得ます。遺言書の内容を尊重する意向がある場合は、任意に遺留分の放棄も可能です。

遺留分放棄は一見不合理に感じられますが、結果として相続争いを未然に防げる可能性もあるため、上手く活用するべきケースも存在します。

遺留分放棄について、タイミングや必要書類を解説します。

遺留分放棄のタイミング

相続開始前(被相続人の生存中)に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所への申し立てが必要です。被相続人の住所地がある家庭裁判所で申立てを行います。遺言書の作成や生前贈与などに際して遺留分が問題となる場合に行うケースが一般的です。

相続開始後であれば、遺留分侵害額請求権の行使は任意であり、特段の手続きを必要としません。遺留分の請求をしなければ遺留分放棄とみなされ、遺言書の内容どおりに遺贈が行われます。

なお、遺留分放棄と相続放棄は別です。遺留分放棄は、遺留分の侵害を受けても権利を主張しない旨の宣言という効果のみを持ちます。相続開始前に遺留分の放棄を行なっても、相続権そのものは失われません。相続放棄のためには、相続開始から3ヶ月以内に相続放棄の手続きが必要です。

遺留分放棄に必要な書類

遺留分放棄に必要な書類は以下のとおりです。

  • 遺留分放棄の許可の申立書:裁判所の公式サイトに書式が用意されています
  • 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 申立人の戸籍謄本

審査が必要な場合、追加書類の提出を依頼されるケースがあります。申立てに必要な費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代です。

まとめ

遺留分は特定の相続人に対して最低限保障されている相続財産の取り分を意味します。相続においてもっとも強い効力を有しており、遺言の内容よりも優先されます。遺留分の侵害を受けた相続人は、遺留分侵害額の請求が可能です。

遺留分問題は複雑化しやすく、当事者のみでの解決が難しいケースが珍しくありません。適切な対応のためには、遺留分を含む相続全般に関する正しい知識や理解が必要です。遺留分やその他の事由によって相続争いが発生しそうな場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。

相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

>>お問い合わせはこちら

監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。

2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。
複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。