【税理士監修】相続税の早見表で大まかな税額を把握。相続税の計算方法や注意点も解説
更新日:2023.9.8
相続税はさまざまな要素によって左右されるため、正確な金額を算出するためには複雑な計算が必要です。しかし、相続税の発生有無の判断および大まかな税額の計算は、遺産総額・法定相続人の人数・配偶者の有無の3点さえ押さえれば実施できます。
本記事では2022年時点の税法をもとに作成した相続税の概算早見表の紹介と、表の見方や使い方の詳しい解説をします。例を用いた相続税の計算方法の説明や、早見表を使う際の注意点も取り上げました。
目次
なぜ相続税の早見表が作成できるのか
相続税の正確な金額を出すためには、さまざまな要素を考慮した複雑な計算が必要です。しかし、大まかな税額であれば、いくつかのポイントを押さえれば計算できます。
相続税の早見表を紹介する前に、なぜ相続税の早見表を作成できるのかを紹介します。
なぜ相続税の概算ができるのか
相続税額に特に大きな影響を与える要素は、遺産総額・法定相続人の人数・配偶者の有無の3点です。この3点を押さえれば、相続税の大まかな金額を計算できます。
相続税には基礎控除という制度があります。基礎控除とは条件を問わず、税額の計算にあたって必ず控除できる金額です。基礎控除額は以下の式によって算出されます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人が1人の場合、基礎控除額は3,600万円です。すなわち、相続税には最低でも3,600万円の基礎控除が存在するため、遺産総額が3,600万円以下の場合は相続税が発生しません。法定相続人の人数が増えるにつれ、基礎控除の額も大きくなります。
相続税の計算は、最初に課税対象となる遺産総額から基礎控除の額を引くことから始めます。したがって、基礎控除を決める法定相続人の数が、相続税に大きな影響を与えるのです。
また、相続税にはさまざまな控除・特例制度がありますが、もっとも金額が大きいのが配偶者控除(正式名称:配偶者の税額の軽減)です。そのため、配偶者の有無によって、相続税の金額が大きく変わります。
相続税の計算にはほかにもさまざまな要素を用いますが、遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無に比べると、税額に与える影響は大きくありません。この3つの要素を使って算出した税額は、相続税の正確な金額と特別大きなズレがないといえるため、相続税の概算が可能です。
遺産総額の計算方法
相続税の計算で用いる遺産総額は、相続税の対象となるプラスの財産から、負債などマイナスの財産の額を控除した額です。プラスの財産・マイナスの財産の代表例 を紹介します。
プラスの財産 | 現金、預貯金、有価証券、不動産、家財、骨董品、美術品、宝石、貸付金、著作権などの各種権利、3年以内に生前贈与を受けた財産など |
マイナスの財産 | 借金、住宅ローン、各種未払金など 債務ではないものの、葬式費用もマイナスの財産として控除できる |
また、一見プラスの財産であっても、遺産総額に含めない非課税対象 の財産も存在します。墓地や仏壇など日常礼拝の用具や、死亡保険金・死亡退職金の一定額などが代表例です。
プラスの財産からマイナスの財産を引いた額が、相続税の計算に使う正味の遺産総額となります。相続税を正しく計算するためには、計算対象となる遺産に関する正しい認識・理解が必要です。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法によって定められた相続人です。法律によって遺産を相続する権利を保証された人と言い換えられます。
法定相続人になるのは被相続人の配偶者および特定の血族です。血族は以下のように相続順位が定められています。
- 第1順位:子供(直系卑属。子供がいなければ孫)
- 第2順位:親(直系尊属。親がいなければ祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹がいなければ甥姪)
法定相続人になれるのは、配偶者およびもっとも順位が高い血族のみです。たとえば、子供と親どちらもいる場合、法定相続人になるのは子供だけです。子供がおらず親がいる場合は、親が法定相続人になります。
民法では法定相続分として、法定相続人ごとの相続割合が決められています。それぞれの法定相続割合は以下のとおりです。
- 第1順位:配偶者2分の1、子または孫全体で2分の1
- 第2順位:配偶者3分の2,親または祖父母全体で3分の1
- 第3順位:配偶者4分の3,兄弟姉妹または甥姪全体で4分の1
遺産総額が3,000万円で法定相続人が配偶者と子供3人の場合、配偶者が2分の1の1,500万円を相続し、子供3人で残りの1,500万円を相続したうえで各々に分割します。
なお、遺産分割では必ずしも法定相続割合を用いるわけではありません。遺産分割協議が上手く進まず合意が得られなかった場合に、法定相続割合をもとに遺産分割を実施します。
相続税の早見表 2022年版
2022年9月時点の税法をもとにして作成した相続税の早見表を紹介します。相続でもっとも一般的である、子供が法定相続人の場合を例にしています。
相続税の総額は配偶者控除の適用有無によって大きく変わるため、配偶者がいる場合といない場合、2種類の相続税早見表を作成しました。基礎控除適用前の遺産総額ごとに、相続税合計額の概算がいくらになるかを表したものです。列が右にいくにつれて、法定相続人の数が増えています。
配偶者がいる場合の相続税早見表
まずは配偶者がいる場合(配偶者と子供が法定相続人)の相続税早見表です。
基礎控除前の遺産総額 | 配偶者+子供1人 | 配偶者+子供2人 | 配偶者+子供3人 | 配偶者+子供4人 |
3,600万円以下 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
4,000万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
5,000万円 | 40万円 | 10万円 | 0円 | 0円 |
6,000万円 | 90万円 | 60万円 | 30万円 | 0円 |
7,000万円 | 160万円 | 113万円 | 80万円 | 50万円 |
8,000万円 | 235万円 | 175万円 | 138万円 | 100万円 |
9,000万円 | 310万円 | 240万円 | 200万円 | 163万円 |
1億円 | 385万円 | 315万円 | 263万円 | 225万円 |
1億5,000万円 | 920万円 | 748万円 | 665万円 | 588万円 |
2億円 | 1,670万円 | 1,350万円 | 1,218万円 | 1,125万円 |
2億5,000万円 | 2,460万円 | 1,985万円 | 1,800万円 | 1,688万円 |
3億円 | 3,460万円 | 2,860万円 | 2,540万円 | 2,350万円 |
3億5,000万円 | 4,460万円 | 3,735万円 | 3,290万円 | 3,100万円 |
4億円 | 5,460万円 | 4,610万円 | 4,155万円 | 3,850万円 |
5億円 | 7,605万円 | 6,555万円 | 5,963万円 | 5,500万円 |
法定相続人が配偶者と子供2人、基礎控除適用前の遺産総額が8,000万円の場合、相続税合計額を概算すると175万円となります。
配偶者がいない場合の相続税早見表
続いては配偶者がいない場合の相続税早見表です。法定相続人は子供のみとなります。
基礎控除前の遺産総額 | 子供1人 | 子供2人 | 子供3人 | 子供4人 |
3,600万円以下 | 0万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
4,000万円 | 40万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
5,000万円 | 160万円 | 80万円 | 20万円 | 0円 |
6,000万円 | 310万円 | 180万円 | 120万円 | 60万円 |
7,000万円 | 480万円 | 320万円 | 220万円 | 160万円 |
8,000万円 | 680万円 | 470万円 | 330万円 | 260万円 |
9,000万円 | 920万円 | 620万円 | 480万円 | 360万円 |
1億円 | 1,220万円 | 770万円 | 630万円 | 490万円 |
1億5,000万円 | 2,860万円 | 1,840万円 | 1,440万円 | 1,240万円 |
2億円 | 4,860万円 | 3,340万円 | 2,460万円 | 2,120万円 |
2億5,000万円 | 6,930万円 | 4,920万円 | 3,960万円 | 3,120万円 |
3億円 | 9,180万円 | 6,920万円 | 5,460万円 | 4,580万円 |
3億5,000万円 | 1億1,500万円 | 8,920万円 | 6,980万円 | 6,080万円 |
4億円 | 1億4,000万円 | 1億920万円 | 8,980万円 | 7,580万円 |
5億円 | 1億9,000万円 | 1億5,210万円 | 1億2,980万円 | 1億1,040万円 |
法定相続人が子供2人、基礎控除適用前の遺産総額が8,000万円の場合、相続税合計額を概算すると470万円です。配偶者がおらず配偶者控除の適用がないため、相続税合計額が大きくなっていることがわかります。
相続税の早見表を使う際に確認:相続税の計算方法
相続税の早見表に記載されているのは、あくまでも遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無の3点のみを用いて計算した金額です。実際に相続税を計算する際は、さらに細かな要素や計算過程が絡みます。
早見表から大まかな税額を把握できるとはいえ、相続税をどのように計算するかを知っておくと、相続税を理解しやすくなり安心です。相続税の計算方法について解説します。
相続税の計算方法
相続税はひとつの計算式で算出できるわけではありません。複数の工程を踏む必要があります。計算の流れは以下のとおりです。
- 預貯金などプラスの財産から債務などマイナスの財産を差し引き、正味の遺産額を計算する
- 正味の遺産額から基礎控除額を引き、課税対象になる遺産総額を算出する
- 課税対象の遺産総額を法定相続分で按分する
- 各人の仮の相続税額を算出する
- 4で算出した各人の相続税額を合算する
- 合算した相続税の総額をもとに、実際の相続分に応じて再計算し、正確な相続税を算出する
特例や控除などの制度を適用する場合、さらに多くの計算が必要になります。
相続税の計算例
相続税の計算例を紹介します。あくまでも計算の流れをイメージしやすくすることが目的のため、簡単な例を取り上げました。
条件は以下のとおりです。
- プラスの財産:預貯金4,000万円、有価証券1,000万円、不動産3,000万円 合計8,000万円
- マイナスの財産:借金1,500万円 葬式費用500万円 合計2,000万円
- 法定相続人:配偶者、子供2人 合計3人
- 配偶者控除以外の適用なし
- 実際の相続額:配偶者が4,000万円(全体の50%)、子供1が3,000万円(全体の37.5%)、子供2が1,000万円(全体の12.5%)
まずは正味の遺産額の計算です。プラスの財産8,000万円から、マイナスの財産2,000万円を引きます。
8,000万円ー2,000万円=6,000万円
続いて基礎控除額の計算です。今回は法定相続人が合計3人のため、以下の式で計算します。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
正味の遺産額から基礎控除を引いた、課税対象になる遺産総額は以下のとおりです。
6,000万円ー4,800万円=1,200万円
課税対象の遺産総額を法定相続分で按分します。今回の場合、配偶者が2分の1で600万円、子供が2分の1で合計600万円です。子供の相続分合計の600万円を均等に分けると、それぞれ300万円ずつとなります。
相続税の税率は取得金額によって変わりますが、1,000万円以下の場合は10%です。したがって、各人の仮の相続税額は以下のようになります。
- 配偶者:600万円×10%=60万円
- 子供1:300万円×10%=30万円
- 子供2:300万円×10%=30万円
※相続税の税率の詳細は「No.4155 相続税の税率|国税庁」をご確認ください。
全員の相続税額を合算した金額は120万円です。
最後に実際の相続分に応じて再計算し、正確な相続税を算出します。各人の相続割合および正確な相続税の額は以下のとおりです。
- 配偶者:50% 120万円×50%=60万円
- 子供1:37.5% 120万円×37.5%=45万円
- 子供2:12.5% 120万円×12.5%=15万円
そして、詳細は省略しますが、配偶者控除の適用により配偶者の相続税額は0円になります。したがって、法定相続人全員の相続税合計額は60万円です。こちらは早見表の金額と一致しています。
相続税の早見表を使う際の注意点
相続税の早見表は相続税の大まかな計算に便利です。しかし早見表の使い方や相続税計算の考え方を誤ると、まったく異なる概算結果になってしまう恐れがあります。
特に注意が必要なのが法定相続人の数え方です。相続税の早見表を使う際の注意点を紹介します。
亡くなった被相続人に養子がいる場合の数え方
まずは亡くなった被相続人に養子がいる場合の法定相続人の数え方です。被相続人の養子は法定相続人に該当しますが、参入できる人数に制限があります。法定相続人に含められる養子の数は以下のとおりです。
- 被相続人に実子がいる:1人
- 被相続人に実子がいない:2人まで
被相続人の子供が実子2人と養子2人の場合、法定相続人として数えられるのは実子2人と養子1人の計3人です。被相続人に実子がおらず、子供が養子2人のみの場合、養子2人とも法定相続人に数えられます。
養子の数え方を誤ると、法定相続人の数も誤りとなってしまいます。相続人の早見表を正しく使うには、養子の数え方に関する正しい認識が必要です。
代襲相続が発生した際の数え方
代襲相続とは本来の法定相続人がすでに亡くなっているなどの理由で相続できない場合、代わりにその子供が相続することです。
代襲相続を考慮せずにいると、法定相続人の数を数え間違えてしまう恐れがあります。以下の例を用いて解説します。
- 被相続人の子供はすでに死亡 子供の子供(被相続人からみた孫)が2人いる
- 法定相続人の第3順位として兄が1人いる
一見すると第3順位である兄1人が相続人です。しかし、被相続人の子供の子供である孫が2人いるため、代襲相続が発生し孫が法定相続人になります。したがって正しい法定相続人は2人です。
このように代襲相続を考慮せず、第3順位である兄弟姉妹を法定相続人として数えてしまうと、法定相続人の数を誤ってしまいます。このように、代襲相続の発生有無と、代襲相続が発生した際の数え方に注意する必要があります。
相続放棄をした法定相続人の数も基礎控除額の計算に使う
相続放棄とはプラスの財産・マイナスの財産問わず、すべての相続権を放棄することです。相続放棄をした人は相続人として扱われないため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。しかし、基礎控除額の計算では、相続放棄をした法定相続人の数も含める点に注意が必要です。
たとえば、被相続人に配偶者と3人の子供がおり、そのうち子供の1人が相続放棄をしたとします。この場合、遺産分割協議は配偶者と子供2人で行います。しかし、基礎控除額の計算に使う法定相続人の数は、配偶者+子供3人の計4人のままです。
このように、相続放棄をした法定相続人がいても、基礎控除額の計算に使う法定相続人の数は変わりません。基礎控除額の計算を誤る原因になりやすいため、気をつける必要があります。
まとめ
相続税の額に大きく影響する要素は、遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無の3点です。この3点を用いることで、相続税の概算が可能であるため、今回紹介したような早見表も作成できます。
相続税の早見表を用いる際は、遺産総額や法定相続人などの正しい数を把握する必要があります。また、早見表で確認できるのは、あくまで大まかな税額です。相続税の正確な計算には複雑な計算や、高度な専門知識が必要となります。
相続税の額を正しく把握するためには、専門家である税理士に相談するのが確実です。相続税の早見表で概算を把握しつつ、より詳しい計算のためには、税理士のサポートを受ける必要があります。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。