【税理士監修】早見表付き:相続税の計算方法や大まかな税額を把握しておこう

相続税はさまざまな要素によって左右されるため、正確な金額を算出するためには複雑な計算が必要です。しかし、相続税の発生有無の判断および大まかな税額の計算は、遺産総額・法定相続人の人数・配偶者の有無の3点さえ押さえれば実施できます。
本記事では2022年時点の税法をもとに作成した相続税の概算早見表の紹介と、表の見方や使い方の詳しい解説をします。例を用いた相続税の計算方法の説明や、早見表を使う際の注意点も取り上げました。
目次
なぜ相続税の早見表が作成できるのか

相続税の正確な金額を出すためには、さまざまな要素を考慮した複雑な計算が必要です。しかし、大まかな税額であれば、いくつかのポイントを押さえれば計算できます。
相続税の早見表を紹介する前に、なぜ相続税の早見表を作成できるのかを紹介します。
なぜ相続税の概算ができるのか
相続税額に特に大きな影響を与える要素は、遺産総額・法定相続人の人数・配偶者の有無の3点です。この3点を押さえれば、相続税の大まかな金額を計算は可能なのです。
なお、相続税には基礎控除という制度があります。基礎控除とは条件を問わず、税額の計算にあたって必ず控除できる金額です。基礎控除額は以下の式によって算出されます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
例えば、法定相続人が配偶者だけの場合、「3,000万円+(600万円×1人)」で基礎控除額は3,600万円になります。すなわち、相続税には最低でも3,600万円の基礎控除が存在するため、遺産総額が3,600万円以下の場合は相続税が発生しません。したがって、法定相続人の人数が増えるにつれ、基礎控除の額も大きくなります。
相続税の計算は、最初に課税対象となる遺産総額から基礎控除の額を引くことから始めます。そのため、基礎控除を決める法定相続人の数が、相続税に大きな影響を与えるのです。
また、相続税にはさまざまな控除・特例制度がありますが、もっとも控除額が大きいのが配偶者控除(正式名称:配偶者の税額の軽減)です。そのため、配偶者の有無によって、相続税の金額は大きく変わります。
相続税の計算にはほかにもさまざまな要素を用いますが、遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無に比べると、税額に与える影響は大きくありません。この3つの要素を使って算出した税額は、相続税の正確な金額と大きなズレがないといえるため、相続税の概算が可能と言えるのです。
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
財産の種類
相続税の計算で用いる遺産総額は、相続税の対象となるプラスの財産から、負債などマイナスの財産の額を控除した額です。以下はプラスの財産・マイナスの財産の代表例です。
プラスの財産 |
現金、預貯金、有価証券、不動産、家財、骨董品、美術品、宝石、貸付金、著作権などの各種権利、7年以内に生前贈与を受けた財産など |
---|---|
マイナスの財産 |
借金、住宅ローン、各種未払金など 債務ではないものの、葬式費用もマイナスの財産として控除できる |
一見プラスの財産であっても、遺産総額に含めない非課税対象の財産も存在します。墓地や仏壇など日常礼拝の用具や、死亡保険金・死亡退職金の一定額などが代表例です。
プラスの財産からマイナスの財産を引いた額が、相続税の計算に使う正味の遺産総額となります。相続税を正しく計算するためには、計算対象となる遺産に関する正しい認識・理解が必要です。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法によって定められた相続人です。法律によって遺産を相続する権利を保証された人と言い換えられます。
法定相続人になるのは被相続人の配偶者および特定の血族です。血族は以下のように相続順位が定められています。
相続順位 |
法定相続人 |
---|---|
第1順位 |
子供(直系卑属。子供がいなければ孫) |
第2順位 |
親(直系尊属。親がいなければ祖父母) |
第3順位 |
兄弟姉妹(兄弟姉妹がいなければ甥姪) |
法定相続人になれるのは、配偶者およびもっとも順位が高い血族のみです。たとえば、子供と親どちらもいる場合、法定相続人になるのは子供だけです。子供がおらず親がいる場合は、親が法定相続人になります。
民法では法定相続分として、法定相続人ごとの相続割合が決められています。それぞれの法定相続割合は以下のとおりです。
相続順位 |
法定相続割合 |
---|---|
第1順位 |
配偶者:2分の1 |
第2順位 |
配偶者:3分の2 |
第3順位 |
配偶者:4分の3 |
遺産総額が3,000万円で法定相続人が配偶者と子供3人の場合、配偶者が2分の1の1,500万円を相続し、子供3人で残りの1,500万円を相続したうえで各々に分割します。
なお、遺産分割において法定相続割合は絶対ではありません。相続人全員の合意があれば自由に分割割合を決められます。しかし、話し合いで合意に至らない場合、最終的には法律で定められた法定相続割合に基づいて遺産が分割されることになります。
相続税の税率表
相続税を算出する上で知っておくべきなのが、取得金額にかかる相続税の税率です。相続税の税率は、基本的に相続財産の多寡によって段階的に高くなる累進課税が採用されています。
以下は、法定相続分ごとの税率と控除額を表したものです。
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 |
10% |
– |
1,000万円超3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
3,000万円超5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
5,000万円超1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円超2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
2億円超3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
3億円超6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
この税率は、課税遺産総額を法定相続分で仮計算をする際に利用します。最終的な納税額は、この合計額を実際の遺産分割割合で按分し、配偶者控除などの税額控除を適用して決定します。
相続税の早見表(2025年)

2025年4月時点の税法をもとにして作成した相続税の早見表を紹介します。相続でもっとも一般的である、子供が法定相続人の場合を例にしています。
相続税の総額は配偶者控除の適用有無によって大きく変わります。そのため、ここでは配偶者がいる場合と配偶者がいない場合で2種類の相続税早見表を作成しました。
以下の基礎控除適用前の遺産総額ごとに、相続税合計額の概算がいくらになるかを表したものです。列が右にいくにつれて、法定相続人の数が増えています。
配偶者がいる場合の相続税早見表
まずは配偶者がいる場合(配偶者と子供が法定相続人)の相続税早見表です。
基礎控除前の |
配偶者+子供1人 |
配偶者+子供2人 |
配偶者+子供3人 |
配偶者+子供4人 |
3,600万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
4,000万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
5,000万円 |
40万円 |
10万円 |
0万円 |
0万円 |
6,000万円 |
90万円 |
60万円 |
30万円 |
0万円 |
7,000万円 |
160万円 |
113万円 |
80万円 |
50万円 |
8,000万円 |
235万円 |
175万円 |
138万円 |
100万円 |
9,000万円 |
310万円 |
240万円 |
200万円 |
163万円 |
1億円 |
385万円 |
315万円 |
262万円 |
225万円 |
1.5億円 |
920万円 |
747万円 |
665万円 |
587万円 |
2億円 |
1,670万円 |
1,350万円 |
1,217万円 |
1,125万円 |
2.5億円 |
2,460万円 |
1,985万円 |
1,800万円 |
1,687万円 |
3億円 |
3,460万円 |
2,860万円 |
2,540万円 |
2,350万円 |
5億円 |
7,605万円 |
6,555万円 |
5,962万円 |
5,500万円 |
10億円 |
1億9,750万円 |
1億7,810万円 |
1億6,635万円 |
1億5,650万円 |
なお、この早見表では、配偶者の税額軽減(配偶者が取得した相続財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかからない特例)を適用することを前提としています。
実際には、生前贈与の有無やその他の特例(小規模宅地等の特例など)の適用状況によって変動します。
配偶者がいない場合の相続税早見表
続いては配偶者がいない場合の相続税早見表です。法定相続人は子供のみとなります。
基礎控除前の |
子供1人 |
子供2人 |
子供3人 |
子供4人 |
3,600万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
4,000万円 |
40万円 |
0万円 |
0万円 |
0万円 |
4,500万円 |
115万円 |
30万円 |
0万円 |
0万円 |
5,000万円 |
160万円 |
80万円 |
20万円 |
0 |
6,000万円 |
310万円 |
180万円 |
120万円 |
60万円 |
7,000万円 |
480万円 |
320万円 |
220万円 |
160万円 |
8,000万円 |
680万円 |
470万円 |
330万円 |
260万円 |
9,000万円 |
920万円 |
620万円 |
480万円 |
360万円 |
1億円 |
1,220万円 |
770万円 |
630万円 |
490万円 |
1.5億円 |
2,860万円 |
1,840万円 |
1,440万円 |
1,240万円 |
2億円 |
4,860万円 |
3,340万円 |
2,460万円 |
2,120万円 |
2.5億円 |
6,930万円 |
4,920万円 |
3,960万円 |
3,120万円 |
3億円 |
9,180万円 |
6,920万円 |
5,460万円 |
4,580万円 |
5億円 |
1億9,000万円 |
1億5,210万円 |
1億2,980万円 |
1億1,040万円 |
10億円 |
4億5,820万円 |
3億9,500万円 |
3億5,000万円 |
3億1,770万円 |
配偶者がいない場合、「配偶者の税額軽減」という特例が適用できないため、相続税合計額が大きくなります。
相続税の計算方法と計算例

相続税の早見表に記載されているのは、あくまでも遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無の3点のみを用いて計算した金額です。実際に相続税を計算する際は、さらに細かな要素や計算過程が絡みます。
このように早見表から大まかな税額を把握できるとはいえ、相続税をどのように計算するかを知っておくことも大切です。以下より、相続税の計算方法について解説します。
相続税の計算方法
相続税はひとつの計算式で算出できるわけではありません。複数の工程を踏む必要があります。計算の流れは以下のとおりです。
<遺産総額の算出>
- 預貯金などプラスの財産から債務などマイナスの財産を差し引き、正味の遺産額を計算する
- 正味の遺産額から基礎控除額を引き、課税対象になる遺産総額を算出する
- 課税対象の遺産総額を法定相続分で按分する
- 各人の仮の相続税額を算出する
- 4で算出した各人の相続税額を合算する
- 合算した相続税の総額をもとに、実際の相続分に応じて再計算し、正確な相続税を算出する
特例や控除などの制度を適用する場合、さらに多くの計算が必要になります。
相続税の計算例
上記の計算方法に従って、実際の数字をもとに相続税の計算例を見てみましょう。
例として、以下の条件だったとします。
<条件例>
相続財産 |
<プラスの財産>
<マイナスの財産>
合計の相続総額:8,000万円 |
---|---|
法定相続人 |
配偶者、子供2人 |
適用できる控除 |
配偶者控除のみ |
相続の内訳 |
配偶者:4,000万円 |
プラスの財産からマイナスの財産を引いた相続財産は6,000万円です。ここから基礎控除として、3,000万円と相続人数の3人×600万円を差し引きます。
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:8,000万円ー4,800万円=3,200万円
ここで一旦、課税遺産総額の3,200万円を法定相続分で仮分割して、各人の取得金額を算出します。
<仮の取得金額>
- 配偶者:3,200万円×2分の1=1,600万円
- 子供1:3,200万円×4分の1=800万円
- 子供2:3,200万円×4分の1=800万円
それぞれの取得金額に相続税の税率をかけ、さらにそれらを合算することで仮の相続税の総額を出します。
<仮の相続税額>
- 配偶者:1,600万円×15%−50万円=240万円−50万円=190万円
- 子供1:800万円×10%=80万円
- 子供2:800万円×10%=80万円
相続税の総額(仮):190万円+80万円+80万円=350万円
ここで算出した相続税の総額350万円を実際に取得した財産の割合で按分し、実際に収める各人の相続税額を計算します。
今回のケースでは、配偶者:子供1:子供2の割合は、4:3:1なので、以下の計算式になります。
- 配偶者:350万円×2分の1=175万円
- 子供1:350万円×8分の3=131.25万円
- 子供2:350万円×8分の1=43.75万円
配偶者が実際に取得した財産4,000万円は「配偶者の税額軽減」の対象となるため、配偶者にかかる相続税は0円となります。
したがって、今回の遺産分割における実際の相続税は以下のようになります。
納税者 |
相続税 |
---|---|
配偶者 |
0円 |
子供1 |
131.25万円 |
子供2 |
43.75万円 |
合計相続税額:175万円 |
今回の計算例による納税額はあくまで参考です。最終的に各相続人が実際に納める税額は、配偶者の税額軽減以外にも未成年者控除、障害者控除などのさまざまな税額控除が適用できるケースがあります。
また、被相続人が亡くなる7年以内に生前贈与を受けていた場合は、「生前贈与の7年内加算」が適用され、相続額に加算されるので注意が必要です。
どういった控除が適用できるのか、生前贈与が影響するかなど具体的なケースで正確な税額を知りたい場合は、税理士にご相談することをお勧めします。
関連記事:【相続税の税率がすぐわかる】相続税の速算表と計算例のまとめ
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説を選択
相続税の早見表を使う際の注意点

相続税の早見表は相続税の大まかな計算に便利です。しかし、早見表の使い方や相続税計算の考え方を誤ると、まったく異なる概算結果になってしまう恐れがあります。
特に注意が必要なのが法定相続人の数え方です。以下からは相続税の早見表を使う際の注意点を紹介します。
亡くなった被相続人に養子がいる場合の数え方
まずは亡くなった被相続人に養子がいる場合の法定相続人の数え方です。被相続人の養子は法定相続人に該当しますが、参入できる人数に制限があります。法定相続人に含められる養子の数は以下のとおりです。
- 被相続人に実子がいる:1人
- 被相続人に実子がいない:2人まで
被相続人の子供が実子2人と養子2人の場合、法定相続人として数えられるのは実子2人と養子1人の計3人です。被相続人に実子がおらず、子供が養子2人のみの場合、養子2人とも法定相続人に数えられます。
養子の数え方を誤ると、法定相続人の数も誤りとなってしまいます。相続人の早見表を正しく使うには、養子の数え方に関する正しい認識が必要です。
代襲相続が発生した際の数え方
代襲相続とは本来の法定相続人がすでに亡くなっているなどの理由で相続できない場合、代わりにその子供が相続することです。
代襲相続を考慮せずにいると、法定相続人の数を数え間違えてしまう恐れがあります。以下の例を用いて解説します。
<例>
- 被相続人の子供はすでに死亡 子供の子供(被相続人からみた孫)が2人いる
- 法定相続人の第3順位として兄が1人いる
一見すると第3順位である兄1人が相続人です。しかし、被相続人の子供の子供である孫が2人いるため、代襲相続が発生し孫が法定相続人になります。したがって正しい法定相続人は2人です。
このように代襲相続を考慮せず、第3順位である兄弟姉妹を法定相続人として数えてしまうと、法定相続人の数を誤ってしまいます。このように代襲相続の発生有無と代襲相続が発生した際の数え方に注意する必要があります。
相続放棄をした法定相続人の数も基礎控除額の計算に使う
相続放棄とはプラスの財産・マイナスの財産問わず、すべての相続権を放棄することです。相続放棄をした人は相続人として扱われないため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。しかし、基礎控除額の計算では、相続放棄をした法定相続人の数も含める点に注意が必要です。
たとえば、被相続人に配偶者と3人の子供がおり、そのうち子供の1人が相続放棄をしたとします。この場合、遺産分割協議は配偶者と子供2人で行います。しかし、基礎控除額の計算に使う法定相続人の数は、配偶者+子供3人の計4人のままです。
このように、相続放棄をした法定相続人がいても、基礎控除額の計算に使う法定相続人の数は変わりません。基礎控除額の計算を誤る原因になりやすいため、気をつける必要があります。
まとめ
相続税の額に大きく影響する要素は、遺産総額・法定相続人の数・配偶者の有無の3点です。この3点を用いることで相続税の概算が可能であるため、今回紹介したような早見表も作成できるのです。
相続税の早見表を用いる際は、遺産総額や法定相続人などの正しい数を把握する必要があります。また、早見表で確認できるのは、あくまで大まかな税額です。相続税の正確な計算には複雑な計算や、高度な専門知識が必要となります。
相続税の額を正しく把握するためには、専門家である税理士に相談するのが確実です。相続税の早見表で概算を把握しつつ、より詳しい計算のためには、税理士のサポートを受ける必要があります。
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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。