【税理士監修】名寄帳とは?取得方法や確認する際の注意点を解説
更新日:2023.9.8
名寄帳は不動産に関する書類の一種です。身内が亡くなり、相続に向けた遺産の整理をしている際に、名寄帳という言葉に触れることがある方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は名寄帳の概要や役割、名寄帳を確認する際のポイントについて解説します。取得方法や費用、相続財産の確認を怠った場合に起こり得る問題に関することも併せて紹介するため、相続の手続きを行っている方に必見の内容です。
本記事を読めば、不動産の相続が発生した際にも的確に対応できるようになるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
目次
名寄帳とは不動産に関する書類のこと
名寄帳は(なよせちょう)と読みます。固定資産税の確認や相続発生時などに使用される書類で、所有不動産に関する内容が記載されています。
ここでは、まず、名寄帳の概要や役割、固定資産税納税通知書との違いについて解説します。
名寄帳の概要と役割
名寄帳は、個人(あるいは法人)が所有する不動産を一覧でまとめたものです。対象の人物(法人)がどのような不動産を所有していたかを確認できるため、相続財産の確認時や相続税申告、相続登記の際に役立ちます。
名寄帳には、固定資産税が非課税の不動産や共同名義の不動産も記載されています。そのため、対象者の所有する全ての不動産を一度に確認可能です。
固定資産税納付通知書との違い
土地やマンション、駐車場などの不動産を所有している方が支払う税金のことを固定資産税と言います。固定資産税納付通知書は、毎年4月から6月にかけて不動産の持ち主の方宛に送られてくる納付通知書です。
固定資産税納税通知書は、納税の際に使用する書類で、固定資産税がいくらになるかが記載されています。固定資産税納付通知書に記載のある内容は以下の通りです。
・土地や家屋の地番、家屋番号 ・家屋の種類、構造 ・地積、床面積 ・課税標準額 ・評価額 ・課税資産税相当額 など |
固定資産税納付通知書に同封されている課税証明と名寄帳は似ており、記載項目に大きな違いはありません。ただし、納付通知書はあくまで税金が発生している不動産のみが対象となります。固定資産税非課税の不動産まで全てを把握するためには、名寄帳が必要となります。
名寄帳で確認できる範囲
名寄帳を作成するのは不動産のある市区町村です。各市区町村の役所ごとに作成されています。そのため、他の市区町村にある不動産は、記載されません。日本全国の保有不動産を一度に調べられるわけではない点に注意しましょう。
別の市や県など複数箇所に不動産を持っている場合は、各役所に書類を請求する必要があります。固定資産税納付通知書や固定資産課税台帳などをチェックしながら名寄帳の発行手続きを進めることで、不動産をくまなく確認できます。
名寄帳を確認する際の注意点
名寄帳を確認する際には注意したいポイントが全部で3つあります。ポイントを押さえて、状況に応じて適切に対応しましょう。
1月1日時点の情報しか確認できない
名寄帳には、書類を請求する年の1月1日時点の不動産情報のみが記載されます。1月2日以降に新しく購入した不動産や、売却した不動産の情報は反映されません。
不動産の契約書や登記簿謄本などを確認し、1月1日以降に動きがないか、新しい書類が増えていないかなどを確認しておく必要があります。
名寄帳の名前は市役所によって変わる
広くは名寄帳として知られていますが、正式な書類の名前は役所ごとに異なります。名寄帳以外の名前の一例は以下の通りです。
・名寄帳兼課税台帳 ・土地家屋名寄帳 ・固定資産課税台帳 ・土地家屋課税台帳 など |
名寄帳という名前では書類を取得できないこともあるため、事前に確認しておく必要があります。ただし、書類の名前は違っても記載内容は名寄帳とほとんど変わりません。対象者が市区町村内に所有していた不動産を確認できます。
取得者名義の不動産しか記載されない
個人名義で名寄帳を取得した場合、法人として所有していた不動産は名寄帳に記載されません。そのため、法人名義でも名寄帳を取得する必要があります。逆のパターンでも同様です。
1つの名寄帳で確認できるのは、対象者が市区町村内に保有していた不動産のみです。例えば、法人名義でA市に事業所を保有、個人名義でB市に自宅、C市に別荘を保有していたとします。この場合、3ヵ所で合計3枚の名寄帳を取り寄せることになります。
名寄帳の見方、確認したいポイント
名寄帳には不動産に関する情報が細かく記載されているため、見方が分からないという方も多いでしょう。名寄帳に記載されている項目は以下の通りです。
・登記名義人 ・土地家屋の一覧(所在地、地目、建物の構造、所有形態など) ・固定資産税評価額 ・課税標準額 ・特例 ・減免 ・非課税措置の有無 など |
相続時に大切なのは、被相続人がどのような土地を所有していたかを把握することです。そのため、土地と家屋の明細を確認できれば大方問題はありません。
なお、固定資産税評価額は、実際に売買する際の価格とは異なります。名寄帳に記載のある数字をそのまま申告できるというわけではないため注意が必要です。
名寄帳の取得方法
名寄帳の取得は比較的簡単です。相続の際は、相続人であれば必要書類を揃えて提出することで、不動産の所有者以外の方でも書類を取り寄せることができます。
いざというときに困らないよう、取得方法や取得の流れも確認しておくと安心です。ここでは、名寄帳の取得方法を手順に沿って紹介します。
1.書類を集める
まずは、名寄帳の取得に必要となる書類を集めます。必要書類の一例は以下の通りです。
・名寄帳の交付申請用紙 ・本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など) ・住民票の写し ・相続人であることが分かる書類(戸籍謄本、遺産分割協議など) ・死亡したことを証明できる書類(除籍謄本など) ・委任状 ・代理人の本人確認書類 など |
誰が申請するかによって求められる書類が異なります。また、役所によって必要書類が異なるケースもあるため、詳しい情報は各市区町村のホームページで確認しましょう。
なお、名寄帳の交付申請書類は、役所の窓口でもらうかホームページからダウンロードすることで入手できます。
2.市役所に提出する
必要書類を揃えたら、不動産の所在地の市町村役場に申請します。東京23区や大阪市など一部の政令指定都市では市税事務所(都税事務所)に申請するケースもあります。不動産所在地の提出先が分からない場合は、市区町村役場に連絡しましょう。前もって調べておくとスムーズに手続きできます。
また、名寄帳の申請書類は郵送で提出することも可能です。ただし、この場合も郵送先を事前に確認する必要があります。都税証明郵送受付センターで受け付けるケースもあれば、市税事務所郵送センターでは受け付けられないというケースもあります。
3.発行を待つ
窓口で申請する場合は、即日発行です。数分から数十分待てば、その場で発行されます。
一方、郵送で申請する場合は1~2週間程度の時間がかかります。書類を往復させるのに時間がかかるため、余裕を持って手続きを進めることが大切です。
また、交付が完了したら、名寄帳を活用して相続関係の手続きを進めましょう。
名寄帳を請求できる人と費用
名寄帳を請求できる対象範囲や、交付にかかる費用も事前に確認しておくことで、スムーズに手続きを進められるようになります。
名寄帳を取得できる人
名寄帳は比較的簡単に請求できる書類ですが、誰でも請求できるものではありません。名寄帳を取得できる方は、以下のような方に限られています。
・不動産の所有者本人 ・所有者から委託された代理人 ・相続の場合は法定相続人や遺言執行人 |
代理人や法定相続人などが名寄帳を請求する際は、申請者の本人確認書類や委任状、相続関係書類などの提出が求められます。
名寄帳を取得する際にかかる費用
名寄帳の取得には多少の費用がかかる点にも注意しましょう。名寄帳の取得には、以下のような費用が発生します。
・交付手数料:1名義につき300~400円程度 |
名寄帳の交付手数料は役所により異なります。また、郵送する場合は送料、窓口に行く場合は交通費も別途かかります。手続きに不備のないよう、必要書類や費用をよく確認し準備をしておくことが大切です。
相続財産の確認を怠った場合に起こり得る問題
名寄帳は、相続の際に故人の所有していた不動産をくまなく確認できるものとして、多くの方に利用されている書類です。相続税の支払いにおいて、相続財産の確認は重要な意味を持ちます。
相続税の計算や申告を終えた後に、新しく相続財産が出てきてしまった場合、以下のような事態に陥る恐れがあります。
・遺産分割協議のやり直しによる申告遅延 ・申告・納税ミスによる税務調査 ・追徴課税のペナルティー |
申告の遅延や申告ミスがあると、無申告加算税や延滞税、重加算税、過少申告加算税などのペナルティーが与えられる可能性があるため注意が必要です。また、申告・納付期限を過ぎた後では相続税の税額控除や特例制度も適用できなくなります。
さらに、後からマイナスの財産が出てくることで、負債の割合が大きくなるケースも考えられます。通常であれば、マイナスの財産がプラスの財産の額を上回れば、相続放棄や限定承認を適用可能です。
しかし、相続放棄や限定承認は相続発生から3ヵ月以内の申述が必要とされています。一度相続してしまうと、相続方法を後から変更することはできません。
相続財産の確認や相続に関する申告手続きは慎重かつ的確に行うことが大切です。相続財産に不動産がある場合は、名寄帳を活用しながら、丁寧に財産の確認を行いましょう。
まとめ
名寄帳(なよせちょう)は、対象となる方の所有する不動産を一覧で確認できる書類です。非課税不動産や共同名義の不動産も記載されるため、相続においては、故人がどのような不動産を所有していたかをくまなく確認するための重要な書類となります。
ただし、基準日時点の情報しか記載されない点や、役所が管轄している範囲内の不動産しか確認できない点には注意が必要です。また、相続財産をしっかりと把握しておかなければ、追徴課税のペナルティーが発生する恐れもあります。相続財産の洗い出しに難しさを感じる場合や、不動産の相続に不安を感じる方は、税理士に相談しましょう。
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相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。