【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説
更新日:2023.9.8
被相続人が残した相続財産を、一切相続しないことを相続放棄と呼びます。相続放棄は、被相続人に借金や負債など、マイナスの遺産が多く残っていた場合、有効な手続きです。「借金が多いから引き継ぐのは怖い」と考えている方は、相続放棄という選択を取ることも大切でしょう。
しかし、相続放棄の手続きには手順があり、さらに期限もあります。相続税への申告にも相続放棄は影響を及ぼすため、しっかりと把握しなければなりません。そこで、この記事では相続放棄の手順から、相続税への影響について説明しています。
相続放棄を考えている方、さらには相続税の申告を早く対応しなければならない方は、確認してみてください。
目次
相続放棄とは何か
被相続人が亡くなり、自分には相続権があると発覚した瞬間から、相続人は被相続人の残した遺産や債務を引き継ぐかどうかを選ぶ必要があります。相続の方法には、後述する3つの種類があり、相続人は必ずどれか1つを選ばなければなりません。
相続放棄は、相続する方法の1つとして数えられる選択肢であり、すべての遺産や債務を一切引き継がないと意思表示するものです。相続放棄は、相続が発生するとわかったタイミングから3カ月以内に申告を行う必要があります。
自分の親や兄弟姉妹の死亡であれば、亡くなったとわかった瞬間からが期限になります。しかし、例えば実の親が誰なのかわかっておらず、亡くなった後になって自分の親だったと知ったときは、亡くなったタイミングではなく親だと知ったタイミングから3カ月以内です。
必ずしも亡くなったタイミングではないため、注意してください。
相続には3つの選択肢がある
相続には、以下の3つの種類があります。
- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
単純承認とは、被相続人の残した遺産や権利、負債まですべてを引き継ぐことを指します。単純承認は特別な手続きの必要はなく、限定承認や相続放棄の手続きを行わなければ、単純承認したとみなされます。
限定承認は、被相続人の残した遺産のうち、一部を引き継ぐことを指します。例えば、被相続人が残した遺産のなかに負債があるが、プラスになる遺産の方が多いと判断できる場合は、限定承認が有効です。限定承認は、相続人とされる人全員が限定承認の方法を選択する必要があります。誰か一人だけが限定承認するという方法はとれません。
一方、相続放棄は、被相続人の遺産を一切引き継がないことを指します。相続放棄をするには、相続が発生した瞬間から3カ月以内に家庭裁判所に申告しなければなりません。しかし、限定承認とは違い、相続放棄は単独で行うことができます。
3つの相続方法の概要を以下の表で確認してみましょう。
申告期限 | 申告方法 | |
単純承認 | 特になし | 特になし (限定承認、相続放棄の申告をしない場合、単純承認したとみなされる) |
限定承認 | 3カ月以内 | 相続人全員で申告する必要がある |
相続放棄 | 3カ月以内 | 単独で申告可能 |
相続放棄を選択するケース
相続放棄を選択した方が良いケースは、具体的には以下のとおりです。
- 被相続人の債務が、残した遺産や財産を明らかに上回っている場合
例えば、残された財産が100万円である一方、負債は1,000万円を超えているような状況の場合は、明らかに負債が多いため引き継いだとしても圧倒的に不利益になります。このようなケースでは、相続放棄をした方が無難でしょう。
また、ほかには以下のようなケースが考えられます。
- 被相続人やほかの相続人、家族と仲が悪いため、一切関わりたくない場合
- ほかの相続人に相続させたい場合
- 相続問題に関わりたくない場合
このような状況も考えられるため、相続放棄をする際は、相続人との関係性や相続財産についても考えましょう。
また、ほかの相続人に相続させたいと考えている場合、自分の子供に相続権が移ることはありません。相続放棄は、最初から相続人ではなかったとみなされる相続方法であるため、次の順位の人に相続されることになります。誰に相続させたいのか、しっかりと考えて相続放棄を行いましょう。
相続放棄の期限・期間
相続放棄には期限があります。相続が開始したタイミング、または相続権があると発覚したタイミングから、3カ月以内に申告しなければなりません。そのため、故人を偲びつつも相続のことに関しては常に考える必要があります。
一方、相続放棄は家庭裁判所によっては、柔軟に対応してくれることもあります。3カ月を過ぎても「相続放棄は認めない」と厳密に言われるわけではないため、理由がある場合は3カ月が過ぎていても相続放棄できる可能性が高いです。例えば、以下のような場合は3カ月を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。
- 弁護士に頼んで相続財産調査をしたにも関わらず何も見つからなかった。しかし、後になって債務があることが発覚した場合
- 被相続人と関係が薄く、相続権があることを全く知らなかった場合
- ほかの相続人に騙された場合
このように、仕方のない理由があったことをしっかりと主張できれば、相続放棄が認められる場合もあります。
相続放棄できないケース
相続放棄とは、被相続人が残した遺産や財産を一切引き継がないことを指しているため、少しでも遺産にかかわってしまうと、相続放棄は無効になってしまいます。相続放棄をしたいと考えている場合は、意図的に相続財産に関わることは避けます。
ここでは、相続放棄にならないケースについて説明していきます。
被相続人から形見をもらった場合
被相続人から形見をもらった場合は、相続放棄は却下され単純承認したとみなされてしまいます。
しかし、財産的価値のある形見を受け取った場合に限るため、被相続人との思い出がある形見を受け取っただけでは単純承認とみなされることはありません。そのため、ブランド品の靴やかばんなどは財産的価値があるとみなされ、単純承認になってしまう場合があります。
形見分けにルールは決まっていないため、厳密に判断することは難しいでしょう。そのため、専門家である税理士などに相談することをおすすめします。
相続財産を処分した場合
被相続人の財産や遺産を処分してしまうと、単純承認したとみなされ相続放棄が却下されます。
相続放棄をするのであれば、相続財産には一切関わらない方が良いですが、ほかの相続人から「処分を手伝ってほしい」「少しの間だけ預かってほしい」などと頼まれることもあるでしょう。その場合は、引き継ぐ相続人が現れるまで一切手に触れず管理しておく必要があります。
しかし、その相続財産に財産的価値がない場合は、処分しても相続放棄は維持されます。疑惑の目を向けられないためにも、財産的価値がないことを証明できる書類があると、さらに有効です。
また、相続財産の処分には借金の返済も含まれます。少しでも被相続人の借金を返済した場合は、単独承認したとみなされてしまうため、注意してください。
相続財産を隠した(隠蔽した)場合
相続財産を隠蔽した場合は、相続放棄が却下されます。財産的価値の高い形見をもらい受けた場合も、相続財産を隠蔽したとみなされる、相続放棄はなかったことにされてしまいます。
相続放棄は、少しでも相続財産に関わると却下されてしまう場合が非常に多いです。相続放棄をすると決めたのであれば、できる限り相続財産からは離れて生活しましょう。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄をするためには、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。期限は相続が発生したと発覚してから3カ月以内です。3カ月は、長く感じる人もいるかもしれませんが、意外にも短くあっという間に締め切り日が訪れます。
相続放棄を考えている場合は、しっかりと考えた後に迅速に対応をしましょう。
被相続人の財産を調査する
まずは被相続人の全財産の調査を行います。相続財産をすべて把握しなければ、相続の方法を選択することができません。相続放棄するか、単純承認するのかを決めるためにも必ず行いましょう。相続財産調査は、税理士などに依頼するとスムーズです。
また、相続放棄か限定承認をする際は、相続が発覚してから3カ月以内に申告する必要があります。そのため、相続財産調査は素早く行わないと、期限の3カ月に間に合わない可能性も高いです。被相続人が死亡した瞬間から、相続財産は行うようにしましょう。
相続放棄に必要な書類を作成、または収集する
相続放棄に必要な書類を作成し、さらに必要な書類を集めましょう。自身が、被相続人とどのような続柄であったかによって、必要な書類は異なります。
共通して全員が揃える必要のある書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
これらは、被相続人とどのような続柄であったとしても必要となるため、すぐに用意しましょう。
また、相続人が、被相続人の配偶者、第1順位相続人、第2順位相続人、第3順位相続人かによって、必要な書類がかわります。詳しくは裁判所のホームページを確認し、必要に応じて用意してください。
また、相続放棄の申述書の提出も必要です。相続放棄申述書は、家庭裁判所に必ず置いてあります。もしくはホームページからダウンロードもできるため、前もって準備しておきましょう。申述書を記入する際、申述人が未成年か成人かで書き方が異なるため、注意が必要です。
家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する
家庭裁判所に、相続放棄をする申述書と必要な書類を提出してください。提出する家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所です。提出方法は、以下の2つがあります。
- 郵送で提出する
- 家庭裁判所に赴き提出する
どちらの方法でも問題ありません。提出しやすい方法で提出しましょう。
家庭裁判所に申述書を提出すると、家庭裁判所から相続放棄照会書・回答書が届きます。照会書の内容をじっくりと読み、回答書に必要事項を回答し返送すると、相続放棄の受理が完了です。回答書の返送には期限があります。照会書内に期限が記入されていることが多いため、しっかりと把握しておきましょう。
相続放棄の完了
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届き、相続放棄が完了となります。
必要書類の収集から相続放棄が完了するまでの期間は、長く見積もっても2週間ぐらいです。短い日数とはいえ、相続財産調査が早く終わらなければ相続放棄を選択することも難しいでしょう。最初の段階である相続財産調査は、速やかに行うよう気を付けてください。
また、相続放棄にかかる費用は、以下のとおりです。
収入印紙代 | 800円 |
郵便切手 | 申述書を送付/照会書・回答書送付用/照会書・回答書返送用/受理書送付用 =合計4枚 |
被相相続人の住民票除票もしくは戸籍附票 | 300円 |
申述人の戸籍謄本 | 450円 |
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 | 750円 |
相続放棄による相続・相続税申告への影響、デメリットなど
相続放棄は、借金を背負わなくてもよくなり、さらには相続問題のトラブルに発展しないなどのメリットがある一方、デメリットもあります。ここでは、相続放棄により引き起こされる相続や相続税への影響について紹介します。
相続放棄を行うと、次の順位の者に相続権は移動する
相続放棄を行うと、相続権は自分の子ではなく次の順位に移動します。例えば、被相続人の子がすべて相続放棄を行ったあと、「自身の子に相続権が移動するのではないか」と不安に思うかもしれません。相続放棄は、もともと相続人ではなかったとみなされる相続方法であるため、純粋に代襲相続はされないため安心してください。
そのため、マイナスになる財産が多いから相続放棄をしたにもかかわらず、自身の子が大変な思いをしてしまう事態にはなりません。
相続放棄を行っても、法定相続人の計算には含まれる
相続放棄をした人が相続人の中にいた場合でも、法定相続人の数は変わりません。そのため、相続税の計算をする上で重要となる基礎控除額に変化はないため、間違えないように計算をしましょう。
また、相続放棄をした後、被相続人の死亡退職金や生命保険金の受取人が、相続放棄をした人であった場合でもその人は受け取ることができます。それらは被相続人の財産ではなく、受取人の財産になるからです。しかし、それらはみなし相続財産と呼ばれるため、相続税の課税対象となります。
相続放棄をしたあとでも、相続税の課税対象となってしまうケースは多いです。気づかないうちに課税対象にならないよう、前もって専門家である弁護士などに相談することをおすすめします。
まとめ
相続放棄は、被相続人の相続財産をすべて引き継がないことを宣言するものです。相続放棄をしたい場合は、相続が発生した時から3カ月以内に家庭裁判所に申告してください。相続放棄は、負債が多く不利益になってしまう場合に有効的です。また、被相続人やほかの相続人と関係が悪い場合にも、トラブルに発展しにくいため、相続放棄は推奨されます。
しかし、相続放棄は少しでも相続財産に関わると相続放棄が却下される恐れがあります。生命保険金などを受け取ると、みなし相続財産とみなされる場合もあり、相続税の申告も行わなければなりません。相続放棄をしたからと言って、完璧に相続問題から離れられるわけではないため、つねに注意が必要です。
相続放棄をするためには、すべての相続財産の調査を行いましょう。後から借金があると発覚した場合、困るのは相続人である自分たちです。相続財産は個人で行うより、専門家に任せた方が間違いなく調査ができます。後のトラブルに発展しないためにも、専門家に任せてスムーズに手続きを行いましょう。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。