家なき子特例とは?制度の内容や適用条件・手続きについて詳しく解説!

相続税対策として利用されることが多い「小規模宅地等の特例」は、相続した土地の評価額を減額できる制度です。しかし原則として、亡くなった方と同居していた親族しか対象になりません。
そこで、小規模宅地等の特例が使えない場合の相続税対策として注目されているのが「家なき子特例」です。本記事では、家なき子特例の仕組みや注意点、申告に必要な書類、近年の改正による影響などを詳しく解説します。
目次
家なき子特例とは
「家なき子特例」とは、被相続人と同居していなかった相続人でも一定の条件を満たせば、小規模宅地等の特例を適用できる制度です。小規模宅地等の特例を活用すると、被相続人の自宅敷地にかかる相続税評価額を最大80%まで減額することが可能となり、相続税の負担を大幅に減らせます。
小規模宅地等の特例は亡くなった人と生前同居していた親族に限定されますが、家なき子特例に該当すれば、別居していた親族でも特例の対象になります。親と離れて暮らし、持ち家を持たずに賃貸で暮らしている相続人に対する負担を減らすのが目的です。
なお、「家なき子特例」という名称は法律上の正式な呼称ではなく、便宜上使われる通称です。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例の「家なき子特例」とは?要件や必要な手続き、注意点を徹底解説
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例対象となる同居とは?条件や定義について解説
家なき子特例の適用要件
家なき子特例を利用するには、被相続人・相続人・宅地それぞれに関して法律で定められた条件を満たす必要があります。平成30年の税制改正以降、制度の乱用を防ぐために要件が厳格化されているため、適用できるかをしっかりと確認しておきましょう。
ここでは、家なき子特例の適用要件について詳しく解説します。
被相続人に関する要件
家なき子特例を適用するためには、亡くなった被相続人に配偶者や同居していた相続人がいてはいけません。つまり、被相続人が生涯一人暮らしだった、または亡くなる前に同居していた家族がすでに他界・別居していたという状況に限り、家なき子特例が適用されます。
また、被相続人が老人ホームに入所していたケースでも、以下の要件をすべて満たせば「同居していなかった」と見なされ、特例の対象とされる場合があります。
- 要介護認定など公的な介護認定を受けていたこと
- 人福祉法などに基づく正式な高齢者施設に入居していたこと
- 入所後も元の自宅を事業用途などに使っていなかったこと
上記の要件は、居住の実態が自宅から施設に移ったと認められる場合に、特例の対象とするために設けられています。家なき子特例を適用する際は、まずは要件を満たしているかどうかをチェックしましょう。
相続人に関する要件
家なき子特例を適用するには、相続人自身も要件を満たさなければいけません。主に「持ち家がないこと」「過去の所有歴」「居住実態」の3点をチェックする必要があります。
持ち家がないこと
相続開始時点で、相続人が自分の所有する住居を持っていてはいけません。また、配偶者や三親等以内の親族、または特別な関係のある法人が所有する住宅に住んでいた場合も特例の対象外となります。形式的に「家がない状態」を装う不正利用を防止するために設けられている要件です。
相続開始前3年以内の居住制限
過去3年以内に、日本国内の自分または一定の関係者が所有する不動産に住んでいた場合も、原則として特例は使えません。該当する関係者とは、配偶者・三親等以内の親族・特別な関係がある法人が該当します。相続人が本当に「家がない」状態だったことを証明しなければいけません。
相続時に住んでいる家を過去に所有していない
現在の住まいがかつて自分の所有だった場合も、特例の対象から除外されます。持ち家を第三者に一時的に譲渡して、家なき子の特例を利用することを防ぐための要件です。売却や贈与後に引き続きその物件に住み続けていた場合も、家なき子特例は利用できません。
相続した宅地に関する要件
家なき子特例を受けるためには、相続人が取得した宅地についても一定の条件を満たしている必要があります。具体的には「相続税の申告期限までその宅地を継続して所有している」という要件を満たしていなければいけません。
被相続人が亡くなった日から10ヵ月以内に相続税の申告を行う必要があり、その間に相続した宅地を売却したり贈与したりして所有権を手放すと特例が適用されません。
また、宅地の用途や状態が変更されている場合にも、要件を満たさない可能性があるため注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】不動産を相続するためには何をする?必要な書類やかかる費用についても解説
家なき子特例が利用されるケース
家なき子特例は、非同居の親族が特定の条件を満たした場合に、相続税の軽減を受けられる仕組みです。しかし、小規模宅地等の特例を利用できるケースも多く、どの場合に家なき子特例が利用されるかはしっかりと理解しておかなければいけません。
ここでは、家なき子特例が利用されるケースについて詳しく解説します。
配偶者がいない
家なき子特例が活用されるケースで最も多いのが、被相続人に配偶者がすでにいない場合です。配偶者が存命であれば、小規模宅地等の特例が適用されるため「家なき子特例」を使う必要はありません。
家なき子特例は、被相続人に配偶者がおらず、同居していた相続人もいない状況において適用される制度です。その上で別居していた子どもや兄弟姉妹などが、要件を満たした場合に制度の対象となります。
誰も同居していなかったという状況が成立しない限り、家なき子特例は適用できません。家なき子特例の根幹となるルールであるため、しっかりと理解しておきましょう。
同居親族がいない
家なき子特例は、被相続人と同居していた親族が存在しない場合に、別居していた親族が小規模宅地等の特例を使えるように設けられた制度です。同居していたかどうかは、住民票の住所や生活実態などで判断され、申告時にはこれらを証明する書類の提出が求められることもあります。
また、形式上同居していなくても、生活を共にしていたと認定されれば、別居扱いにならない場合もあるため注意が必要です。
孫に適用される場合もある
原則として、家なき子特例の対象となるのは被相続人の法定相続人ですが、特定の条件を満たせば孫も対象となるケースがあります。
例えば、孫が代襲相続人として相続権を持っている場合や、養子縁組によって正式な相続人になっているケースでは、家なき子特例の対象に含まれるかもしれません。
しかし、孫が家なき子特例を利用するためには、他の相続人と同様に厳格な条件を満たす必要があります。形式的に相続人となっていたとしても、家なき子特例が自動的に適用されるわけではありません。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例対象となる同居とは?条件や定義について解説
家なき子特例の計算方法
家なき子特例を活用する際は、対象となる土地がどのように計算されるのかを明確にしておく必要があります。計算する際は、以下のポイントを抑えておきましょう。
<適用範囲>
- 土地の面積:最大330㎡
- 減額される相続税評価額:最大80%
具体的に家なき子特例を適用して、土地の価格を計算してみましょう。例えば「土地評価額5,000万円、面積250㎡」の場合は、面積が330㎡以内であるため、以下の計算式で課税対象となる金額が求められます。
5,000万円×20% =1,000万円 |
しかし、「土地評価額8,000万円、面積400㎡」においては、330㎡の部分のみが家なき子特例の対象となります。そのため、残りの70㎡については通常通りの評価額で計算されます。家が大きい場合は、家なき子特例の対象範囲が限定的になると覚えておきましょう。
関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説
家なき子特例の適用する際の手続き
家なき子特例を適用するには、相続税の申告手続きの中で、特例を利用するという意思を示し、必要な書類を添付する必要があります。家なき子特例は自動で適用されるものではなく、所定の方法での申告をしなければいけません。ここでは、申告方法や必要書類について整理します。
相続税の申告
家なき子特例を利用するには、相続税の申告が必要です。特例によって相続税がゼロになる場合でも、申告そのものを行わなければ特例は適用はされません。
申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。期限を過ぎてしまうと、原則として特例の適用は認められなくなるため早めに申告を行いましょう。
必要書類
申告時には、家なき子特例の要件を満たしていることを証明するための書類を添付する必要があります。主に次のような書類を用意しなければいけません。
<相続関係に関する書類>
- 被相続人の戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し
- 遺言書の写し、もしくは遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 申告期限後3年以内の分割見込書
<居住実態を示す書類>
- 相続人の戸籍の附票
- 賃貸借契約書の写し等
- 登記事項証明書等
また、被相続人が老人ホームに入居していた場合には、要介護認定を受けていたことを示す書類や、老人ホームの種類・利用状況がわかる資料などを用意しなければいけない場合もあります。
書類に不備があると、家なき子特例を適用できなくなる可能性があります。できれば手続きは相続税の専門家である税理士と相談をしながら進めるのがおすすめです。
家なき子特例の手続きに関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください
まとめ
家なき子特例は、非同居の親族が被相続人の居住用宅地を相続する際に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。しかし、家なき子特例を適用するには多くの条件をクリアする必要があり、制度内容を十分に理解したうえでの慎重に判断しなければいけません。
特に注意すべきなのは、「相続開始前3年間の居住実態」や「過去の不動産所有歴」といった条件です。平成30年度の税制改正以降、制度の悪用を防ぐために適用要件はより厳しくなっており、意図的な名義変更による家なき子特例は認められなくなっています。
また、特例を利用するためには、相続税の申告期限内にすべての必要書類を添付して申告する必要があります。無申告だったり、条件に合わない状態で申告してしまうと追徴課税やペナルティが発生するおそれもあるので注意しましょう。
家なき子特例を利用した方が良いかどうかは、自分で判断するのが難しいケースも多いです。少しでも不安がある場合は、相続税に精通した税理士に相談しつつ、手続きを進めていくのがおすすめです。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。