土地の相続者が複数いる!代償分割で解決する方法

親や祖父母などから財産を受け継ぐ場合、それが必ずしも現金であるとは限りません。例えば土地や建物など分けられない有形物だったとして、相続者は複数人いるというケースも少なくないでしょう。そんな時、解決方法として挙げられるのが「代償分割」です。
ここでは相続した土地の分け方に悩んでいる方に向け、その方法やメリット・デメリットなどについてまとめました。
目次
代償分割とは?
被相続人が亡くなった際、財産として遺されたものが土地や建物など、不動産メインであることも多いと思います。こういった時、相続権をもつ人が複数存在した場合に使われるのが「代償分割」という手段です。
一般的には、土地や建物を特定の人物が受け継ぐ替わりに、他の相続人に対し現金等の”代償”を支払います。これにより不動産が手に入らなかった人にも平等に利益が分配されるため、公平な相続を行うことが可能です。
代償分割は遺産を複数人で分ける「遺産分割」の中でも、特にその不動産に愛着をもつ相続人がいるケースに向いています。住み続けたい家や受け継ぎたい土地がある方は、ぜひ押さえておきましょう。
代償する金額の計算方法
代償分割では不動産を売却するわけではないため、分配する金額をどう設定するか迷うでしょう。基本的に代償金額は「その時の土地や建物の価値」を評価することで求められます。主な方法としては、以下の通りです。
- 実税価格を参考にする:実際に市場で取引される金額を調査する(不動産会社に依頼)
- 公示地価を参考にする:全国の標準地の1㎡あたりの価格を基準として計算
- 相続税評価額を参考にする:国税庁のサイトで路線価を調べ、そこに土地面積を掛ける
- 固定資産税評価額を参考にする:固定資産税を基準として計算
この中で、固定資産税評価額は一般的に公示地価の7割程度となってしまうため、参考にされるケースは少ないと言われています。確実なのはやはり「不動産会社に相談する」ことでしょう。専門家は上記の方式から適切なものを助言もしてくれますので、まずは身近な業者にお尋ねください。
代償分割における課税額の計算方法を確認
代償分割を行う際、相続税をはじめとする税金がどのように課税されるかも問題です。遺産分割では原則「時価」が採用されますが、代償分割の場合には「相続税評価額」を用いて計算する方法もあります。
立場 | 時価 | 相続税評価額 |
---|---|---|
代償金を払う側 | 相続税評価額-代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価) | 相続税評価額-代償金額 |
代償金を受け取る側 | 相続税評価額+代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価) | 相続税評価額+代償金額 |
参考:国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」
計算式は一見時価の方が複雑なように感じられますが、相続税の総額はどちらを選択しても変わりません。ただし、相続人それぞれの課税額に影響する可能性はあります。少しでも後悔のない方法を検討したい方は税理士等、専門家に相談するのがおすすめだと言えるでしょう。
関連記事:【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説
相続に関するご相談は『やさしい相続センター』にお気軽にお問い合わせください。
代償分割以外にも、3つの遺産分割方法がある!
相続人が複数人いるケースでは、代償分割以外にも様々な遺産分割方法が考えられます。ここでは主な3つの手段について、確認していきましょう。
現物分割
現物分割は、現金や預金、土地、建物(家屋)、株式などを現物のまま分けるものです。複雑な計算が必要ないため、遺産分割の方法としては最もポピュラーだとも言われています。相続する人々がそれぞれに異なる遺産を希望、もしくは話し合いによって納得しているのであれば円滑に相続を完了できるでしょう。
ただし、現金と不動産、株式の価値は基本的に同等ではありません。各自の思い入れで補填可能な部分もありますが、不公平感が生まれやすい点には注意が必要です。
換価分割
換価分割では、まず現金以外の不動産や株式といった財産をすべて売却します。そこで得た収入を遺産に含め、現金として相続人に分配するのが換価分割です。この方法であれば財産がトータルで客観的に評価されますので、相続人同士が納得しやすいというメリットがあります。
しかし、一方で手続きに時間がかかる点には注意しなければなりません。また、不動産等の売却により譲渡所得が発生することから、余計な税金がかかるリスクもあります。
共有分割
共有分割は、土地や建物、株式などの財産を相続人全員で分かち合う方法です。つまり、誰か1人ではなく、「皆で所有する」ものだと考えて良いでしょう。これは面倒な手続きや相続人同士の不和をいったん回避できる、という点では有益です。
とはいえ、そのままにしておくと後のトラブルに繋がるリスクが高い手段でもあります。次世代に受け継がれるタイミングで揉め事が発生することも少なくないため、あくまでもやむを得ない選択だと考えておきましょう。
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!
代償分割のメリットは?
家や土地が財産として遺っている場合、代償分割には多くのメリットが存在します。では、具体的にどのようなメリットがあるか、詳しく見ていきましょう。
土地や建物を売却・共有せずに済む
遺産分割の中でも、代償分割が優れているポイントは土地や建物を売却・共有しなくて良いところです。現金化して相続人に分配する方法もありますが、「育った家を売りたくない」「既に住んでいる」という方も少なくないでしょう。
そんな時、代償分割なら不動産を愛着のある人がそのまま使い続けることができます。また、複数人で財産を共有せずに済むのも大きなメリットです。共有分割はトラブルに繋がるケースも多いので、リスク回避の意味でも効果的だと言えるでしょう。
公平性のバランスを取りやすい
相続人が複数いる場合、遺産分割では「誰が何をどの程度受け継ぐか」で揉め事が起こりがちです。しかし、代償分割を活用すれば全員が何かしらの形で財産を相続できます。また、特定の人物の目的を叶えた上で平等に現金を分けられるのも大きなメリットでしょう。
土地や建物だけでなく、引き継ぐ会社などがあるケースでも、代償分割は有効だと考えられます。立場を受け継ぐ人と、資産を受け継ぐ人…というように、それぞれの権利を守った上で納得のいく結果を導き出しやすい方法です。
節税対策になる可能性もある
不動産を売却するのではなく、そのまま相続することで「小規模宅地等の特例」を受けられる可能性もあります。これは一定の要件を満たしていれば、土地の相続税評価額を最大80%減額可能な制度です。
特に同居していた家族が相続人として家を相続する場合、減額される土地の範囲が非常に広くなります。このことから、代償分割は節税対策としても有効だと言えるでしょう。
参考:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
代償分割にはデメリットも存在する!
代償分割は公平に財産を分配でき、不動産の売却も不要という魅力的な遺産分割の方法です。しかし、なかにはデメリットも存在するため、メリットや自分の状況と照らし合わせて慎重に考えましょう。
資金力が求められる
不動産を売却せずに分割する制度だからこそ、代償分割を行う場合には「代償金の支払い能力」が求められます。そのため、不動産の価値に見合う資金力がない相続人にとっては、非常に活用が難しい方法だと言えるでしょう。
ただし、代償金は現金ではなく、株式や他の不動産で支払っても構いません。代償分割によって相続したい遺産がある方は、念のため確認してみてはいかがでしょうか。
関連記事:【税理士監修】株の相続が発生したら?取るべき手続きや株の相続方法について解説
相続人同士がすれ違いやすい要因も
遺産分割の中では公平に財産を分配しやすい代償分割ですが、争いが起こりやすいポイントもあります。代表的なのは、「不動産の評価方法」です。不動産を受け継ぐ人にとっては、評価額が低い方が代償金を支払う上でも助かります。
しかし、他の相続人からすれば評価額が高い方が受け取れるお金が増えるわけです。こういったすれ違いから、揉め事が起こることも少なくありません。また、他の不動産や株式で代償金を支払おうとした結果、その価値や管理などの面で衝突するケースもあるでしょう。
相続税以外の税金がかかることもある
代償分割によって分配された財産には、基本的に相続税がかかります。しかし、ケースによっては他に「贈与税」や「譲渡所得税」などが求められることもあるのです。
贈与税 | 代償金が遺産分割によって得た額より高くなった場合 |
譲渡所得税 | 現金以外の不動産・株式等で代償金を支払った場合 |
また、遺産分割協議書に代償分割を行った旨が記載されていない場合にも、贈与税が課せられる傾向があります。これを防ぐためには、協議書の書き方を工夫する、評価額が妥当か調査するなどが考えられるでしょう。間違いがないよう、相続の際には税理士等の専門家にご相談ください。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
関連記事:【税理士監修】不動産を遺産分割する際の評価方法は?計算方法や手順も解説
相続に関する相談・お問い合わせは『やさしい相続センター』までお気軽にお問い合わせください。
まとめ|公平な相続のため、慎重かつ適切な決断を
例えば兄弟でもそれぞれに立場や生き方が違うからこそ、遺産相続では対立が生まれることも少なくありません。代償分割は、そういった状況で平等に財産を受け継ぐためのひとつの手段です。
特に既に実家に長く住んでいる方や、今後も管理していきたい土地や家がある方は、ぜひ知っておきたい制度だと言えるでしょう。しかし、その反面相続人同士が納得しやすいよう、客観的な視点での準備も必要となります。
評価額の査定や手続きなど難しい部分も少なくありませんので、まずは税理士をはじめとする専門家をお訪ねください。気持ちを汲み取った上で、第三者の目線から冷静な判断を行ってくれるはずです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。