【税理士監修】税務調査とは?対象者に選ばれる理由や調査されやすい勘定科目、対応方法をわかりやすく解説
更新日:2023.9.8
税務調査とは、税務調査官が「納税者が所得(利益)を正しく申告しているか」を確認するための調査です。法人税や所得税などの国税を納める人であれば誰でも対象になりうる調査です。個人事業主や法人は特に関心が高いかもしれません。なかには、「対象に選ばれるケースを知っておきたい」とお考えの方もいるでしょう。税務調査の目的や調査されるポイントなどを事前に知っておけば、万が一対象になったときにも冷静に対処しやすくなります。
そこでこの記事では、「税務調査とは」という基本的な部分から、税務調査の時期や目的、対象になりやすい個人事業主・法人の特徴などについてわかりやすく解説します。また、税務調査でチェックされやすい勘定科目も紹介しますので、調査対象になった際の参考にしてみてください。
目次
税務調査とは
税務調査とは、誰が何のために実施している調査なのでしょうか。ここでは税務調査の意味や種類、調査対象に選ばれる理由などについて解説します。
税務調査とは、「誰が」「何のため」に実施するのか
税務調査とは、国税局や税務署の職員である税務調査官が、「納税者が所得(利益)を正しく申告しているか」を確かめるための調査のことです。所得税や法人税、消費税、相続税などの国税を納めている納税者が対象になります。
日本の国税は、納税者自身が税額を計算し、納付する「申告納税制度」を採用しているのが特徴です。実際、法人の方は決算期が終了してから2ヶ月以内、個人事業主の方は例年3月中旬を期限に「確定申告書」を提出していると思います。しかし、この申告内容に誤りや記載漏れがあると、国は公正に税金を徴収できません。そのため、税務調査官が納税者に対して調査や指導をし、必要な場合は申告の是正や追加徴税を実施しています。
税務調査の対象者に選ばれる理由とは
国税を納付している法人・個人事業主であれば、誰もが税務調査の対象になりえます。ただし、なかには調査対象に選ばれやすい納税者もいるようです。例えば、「売上に対して利益が少なすぎる」「計上額が前年度と比べて大きく変動している」「過去に不正が多発している業種である」「そもそも確定申告書を提出していない」といった特徴に当てはまる納税者は、対象になりやすいと言われています。また、近年は消費税が10%に増税されたことに伴い、「消費税の還付申告をしている」納税者も、以前と比べて調査対象になるケースが増加しています。
税務調査には2種類ある
税務調査には、「強制調査」と「任意調査」の2種類があります。強制調査とは、巨額の脱税や隠ぺい工作が疑われる納税者に対して、国税局の査察部が裁判所の令状をもとに実施する税務調査のことです。強制調査は納税者の証拠隠滅を防止すべく、事前告知なしで実施されます。一方で任意調査は、申告内容の確認や是正を目的とし、広く実施されている税務調査です。任意調査の場合は、原則として税務調査官から電話で事前通知が入ります。
税務調査は拒否できるのか
強制調査に関しては、裁判所の令状に基づいているため、原則的に拒否できません。任意調査についても、税務調査官には「質問検査権」と呼ばれる権利が認められています。質問検査権とは、税務調査の際に納税者の帳簿や物件などを検査できる権利のことです。つまり、納税者側は必ず税務調査官からの質問に正しく答えなければならず、資料の提出に応じなければいけません。税務調査を拒否した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される(国税通則法第128条)と定められています。そのため、基本的には拒否できません。
税務調査(任意調査)の流れとは
税務調査は、具体的にどのような流れで実施されるのでしょうか。ここでは「任意調査」について、一連の流れを解説します。
(1)事前通知
税務調査官はまず、納税者の確定申告書や事業状況などを事前に調査します(準備調査)。その後、さらに深い調査が必要だと判断すれば、納税者の自宅や事務所へ臨場する調査(実地調査)を実施することが一般的です。
実地調査が決まった場合、納税者は税務署から電話で通知を受け、調査の日時や場所、対象税目、課税期間、調査の目的、調査担当者の氏名などを告げられます。税理士が税務代理人になっている場合は、税理士にも連絡が入ります。これが「事前通知」です。税務調査の実施時期としては、個人課税・資産課税は国税庁の新しい期が始まる7~11月に活発に行われ、3月決算の法人であれば12月までに行われることが多く見られます。
(2)実地調査
実地調査の当日は、税務調査官1~3名が納税者の自宅やオフィスへ訪問します。まずは税務調査官から事業概況や取引状況に関する細かい聴取が行われるため、納税者として質問に答えましょう。その後は、帳簿の確認調査が行われます。具体的には、決裁書や請求書、領収書、棚卸表、銀行の通帳などの数字が申告内容と合致しているかの調査です。法人・個人によって違いますが、これらの調査は基本的に1~3日間で実施されます。
(3)修正申告
実地調査後、国税局または税務署から税務調査の結果が通知されます。もともとの申告内容に誤りがあった場合には、速やかに修正申告書を作成・提出しなければいけません。場合によっては延滞税や過少申告加算税、重加算税などが別途課されることもあるため、差額分の税額と併せて納付する必要があります。仮に税務調査の結果に対して不服があった場合は、2ヶ月以内であれば税務署長に対して異議申し立てをすることが可能です。
税務調査でチェックされやすい勘定科目・ポイントとは
税務調査では、具体的にどのような勘定科目が厳しくチェックされやすいのでしょうか。ここでは税務調査で対象になりやすい代表的な5つの勘定科目について解説します。
(1)売上
税額は利益の金額で決まるため、大元となる「売上」は基本的に調査されます。具体的には、以下の観点です。
◆今期の売上を翌期に繰り延べていないか(期ズレ)
◆帳簿に計上していない売上はないか(売上除外)
売上の調査が行われる際、納税者は税務調査官から取引の相手や売上回収までの流れを細かく聞かれ、帳簿の整合性について確認されます。その際、納品書や領収書の控えといった書類も併せて調査されることが一般的です。
(2)仕入
仕入の金額が大きいほど、利益が減少して納めるべき税額も減ります。そのため、「仕入」も税務調査で重点的に調査されやすい勘定科目といえるでしょう。具体的には、以下のような観点で不正・誤りをチェックされます。
◆仕入取引がないにもかかわらず、仕入があったように見せかけていないか(架空仕入)
◆来期に計上すべき仕入を、今期に繰り上げていないか
仕入の調査にあたっては、発注・入荷から決済までの流れを聴取されたうえで、帳簿の整合性を確認されます。
(3)棚卸資産
期末棚卸資産(在庫)は、金額が少ないほど税額も減るため、確定申告書において非常に重要な勘定科目です。特に棚卸資産は内部で情報が完結するため、税務調査でミスや不正がないか重点的に確認されます。特にチェックされやすいのは、以下の観点です。
◆棚卸資産の数量や単価が過少に計上されていないか
◆意図的に棚卸資産が除外されていないか
棚卸資産の調査では、税務調査官に棚卸しの方法や単価の評価方法を聞かれ、不整合がないかを確認されます。また、必要な場合は実際に税務調査官が倉庫や資材置き場へ臨場し、実物の在庫を確かめることもあります。
(4)交際費
交際費は、「何を交際費に含めるか」「損金に含められるか」などの認識が納税者によって異なっている例も多々あります。そのため、税務調査で確認されやすい項目です。具体的には、以下のような観点で調査されます。
◆交際費をそれ以外の勘定科目に含めていないか
◆交際費のなかに個人的な費用が含まれていないか
交際費の調査に際しては、経費帳や元帳のチェック、交際費に該当する領収書や請求書の確認などが行われます。
(5)人件費
人件費は損金に計上でき、金額が大きいほど税額が減ります。しかし、過大な役員報酬や役員退職金は、損金として認められません。こうした複雑なルールがあるため、税務調査でも以下のような観点で確認が行われます。
◆退職した人物や存在しない人物の人件費を架空計上していないか
◆役員報酬や役員退職金を過剰に支給していないか
人件費の調査にあたっては、主に給与台帳や社員名簿、役員の職務内容、株主総会の議事録などが調査されます。
税務調査の連絡が来たときに対応すべきこと
国税局や税務署から税務調査の通知が来た際には、焦らずに必要な準備を整えることが大切です。ここでは税務調査の連絡が来た際、必ず対応すべきことについて解説します。
必要書類を準備する
税務調査の当日は、対象となる税目・課税期間に関するさまざまな書類の提示が求められます。具体的には、取引先との契約書や請求書、領収書、預金通帳、総勘定元帳、棚卸表、従業員名簿、確定申告書の控えなどが代表的です。こうした書類を事前にファイリングしてまとめておくと、税務調査官へスムーズに提示できるでしょう。
税理士に相談する
税務代理人である顧問税理士には、税務調査の当日に立ち会ってもらうことも可能です。そのため、事前通知が来たら、すぐに顧問税理士へ相談しましょう。顧問税理士がいない場合は、スポットで依頼できる税理士事務所もあります。税務の専門家へ事前に不安な点を相談しておくことで、当日自信を持って受け答えできるでしょう。
まとめ
税務調査は、日ごろから正しく申告していれば、過度に心配する必要はありません。普段から税理士のサポートを受けつつ、抜け漏れのない正しい記帳や申告をすることが大切です。しかし、仮に不正がなかったとしても、初めて税務調査の対象になった際は不安に思うかもしれません。その際にも、税理士が非常に心強い存在になります。税理士に立ち合いを依頼することで、実地調査にも安心して対応できるようになるでしょう。
私たちも税務の専門家として、税務調査の円滑な対応方法について親身にアドバイスすることが可能です。税務調査に関するお悩みをお持ちの際には、ぜひお気軽にご相談ください。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。
2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。
複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。