【税理士監修】家の相続税はどのように計算する?注意点や節税対策について

更新日:2024.12.9

実の親が亡くなった際に、実家の相続に不安を抱える人は多いです。立地の良い場所に家が建っていれば、なおさら家の価格は高騰するため、家に関する相続税を心配する人もいます。しかし、相続税とは家にだけかかるものではありません。

相続税は、全ての相続財産に課税されるものです。そのため、個別に分けられた相続財産ごとに、相続税を計算するわけではないため注意が必要です。家の相続が発生した場合は、家だけではなく他の相続財産も含めて、相続税の計算を行います。

家以外に、ほぼ大きな相続財産が無いと分かっている場合は、相続が発生する前に家にかかる相続税について計算しておくと良いでしょう。個人で計算することも可能ですが、詳細について知りたい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

家の相続をする前に知っておくべき重要なこと

相続は、突然始まるもののため、迅速に対応しなければなりません。しかし、多くの人にとって初めての相続は、疑問だらけです。前もって相続について調べることは、相続をスムーズに終わらせる上で必要なことであり、事前準備にもなります。

家の相続は建物と土地を区別して評価する

家の相続が起きた際、土地と土地の上にある建物は別に考えて計算します。

まず、土地の評価額を決める際は、以下の2通りがあります。

  • 路線価:道路ごとにつけられている値段。路線価は、1平方m2あたりの値段が1,000円単位で表示されている。土地の評価額を路線価で計算する際は、原則として路線価に土地の面積を掛けて算出する。
  • 倍率方式:路線価が定められていない、郊外などの地域で利用される値。路線価とは異なり、土地の面積ではなく固定資産税評価額に倍率を掛けて算出する。

土地の評価額を計算する際は、国税庁のホームページから路線価や評価倍率を確認し計算します。

一方、建物の評価額は固定資産税評価額と同額のため、計算する必要がありません。固定資産税評価額は、毎年春から夏にかけて郵送される固定資産税の納税通知書で確認することができます。

家全体の評価額を知りたい時は、土地の評価額と建物の評価額を全て合計すれば算出が可能です。そのため、まずは土地と建物の評価額を計算しましょう。

家の相続税だけを計算することはできない

相続税とは、故人が残した全ての相続財産に課税される税金です。そのため、家にだけ課税されるものではありません。全ての相続財産には、借金などのマイナスの財産も含まれており、相続が発生した際は全ての相続財産の価格を明確にする必要があります。そのため、家の評価額や、他の財産の金額も明確になった後の価格次第で、相続税が発生するかどうかの判断が可能です。

相続税には基礎控除額が定められており、仮に相続財産の全てが基礎控除額以内に収まっていれば、相続税は発生しません。相続税の基礎控除額は、以下の通り計算できます。

  • 基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば、妻と子ども3人の合計4人が法定相続人の場合、5,400万円が基礎控除額となります。

家を含めた全ての相続財産が、基礎控除額に収まっていれば相続税は発生しません。そのため、家の評価額だけを知っていても、相続税が発生するかどうか判断することは困難です。

家の評価方法は種類によって異なる

家には、持ち家やマンションなど異なる形態が多いです。そのため、家の形態によって評価額の評価方法も異なるため、確認しましょう。

家が一軒家の場合

家が一軒家の場合、上述した通り土地と建物の評価額を個別に計算し、合計して算出されたものが家全体の評価額となります。

例えば、路線価が250と書かれており土地の面積が50m2の場合、土地の評価額は以下の計算になります。

  • 土地の評価額:250×1,000円×50m2=12,500,000円

さらに、固定資産税評価額が200万円の場合、土地の評価額と固定資産税評価額を合計し、14,500,000円が家全体の評価額となります。倍率方式の場合は、固定資産税評価額に倍率を掛けて土地の評価額を計算してください。

一方、土地が所有しているものではなく借地だった場合、上述した計算とは異なります。

借地の場合、土地の評価額の計算は以下の通りです。

  • 借地評価額:土地の自用地評価額×借地権割合

相続する家の土地が、借地か借地でないのか事前に確認してから計算を行いましょう。

マンションの場合

家がマンションの場合も、一軒家と同様に土地と建物に分けて計算を行います。建物に関しては一軒家と同じ計算方法ですが、土地に関する計算は、マンション特有の計算方法です。

マンション全体の土地は、路線価とマンションの敷地全体の面積を掛け合わせて計算できます。しかし、マンション全てが自分達の土地になるわけではありません。自分達が住んでいる部分ごとに、土地を按分する必要があります。

これらを踏まえた上で、マンションの土地の相続税評価額は、以下の通り計算が可能です。

  • 実際に住んでいるマンションの土地の相続税評価額:路線価×マンション全体の土地の面積×敷地権割合

住居部分、つまり持ち分の割合を敷地権割合と呼びます。路線価と面積を掛け合わせることで、マンション全体の土地の評価額が計算されており、そこに敷地権割合を掛けることで、実際の評価額が算出されます。

敷地権割合は、不動産の全部事項証明書から確認することが可能です。

マンションの場合、土地の計算が通常の家とは異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。

家を相続する時に注意すべきこと

家を相続するということは、不動産を相続するということです。不動産の相続には、相続税以外にも税金が発生する場合もあります。そのため、家を相続する際は相続税以外の税金についても把握しなければなりません。

さらに、家の相続には気を付けるべきことも多数あり、思わぬ問題に発生する可能性もあります。

家を相続する際は、どのようなことに注意すべきなのか、確認しましょう。

家を所有するときに発生する税金

家を所有する場合は、固定資産税が発生します。それに合わせて、都市計画税も同時に発生します。固定資産税、都市計画税共に、不動産を所有している限り、毎年徴収されるものです。不動産を相続するのであれば、毎年徴収される負担についても考慮しましょう。

また、住宅ローンが残っている場合もそのまま相続することとなります。住宅ローンや固定資産税などの負担も考えた上で、不動産の相続を決めることが大切です。

さらに、相続したとしても、住居するわけではなく放置してしまうと、国から特定空き家に指定されてしまいます。仮に特定空き家になった場合、固定資産税は6倍に、都市計画税は3倍になる可能性も高いです。

不動産を相続する場合は、税金の負担だけではなく適正な管理も必要になるため、充分に考えてから相続をしましょう。

家を売却するときに発生する税金

相続した家を売却する場合、利益があれば譲渡所得とみなされ、所得税が発生します。利益に対して住民税もかかるため気を付けましょう。譲渡所得は、以下の通り計算することが可能です。

  • 譲渡所得:売却価格-取得費-譲渡費用

取得費は、家の購入代金や建築費、印紙代のことを指しており、譲渡費用とは売却に要した仲介手数料などを指しています。売却価格が、取得費や譲渡費用よりも高ければ利益が発生し、所得税が発生します

売却する際は所得税の発生、もしくは所得税が上がることも考慮した上で、慎重に行いましょう。

共有名義の場合はトラブルに発展することも

共有名義で家を相続すると、トラブルの元となる可能性が高いため避けましょう。共有名義の場合、不動産の管理や変更、さらに売却にいたる多くの手続きを単独で行うことができません。また、共有者の内1人が亡くなった場合、その子どもが相続することになり、共有する人がどんどん増えていく可能性も高いです。

さらに、持ち分のみは単独で処理が可能なため、仮に第三者に持ち分を譲った人が現れた場合、他人と共有する状況にもなり複雑です。トラブルに発展してしまうため、できる限り共有名義は避けるように相続しましょう。

家の相続税対策に使える制度や特例など

家を相続する際、相続税を節税するために使える制度や特例があります。これらを賢く利用することで、多額の税負担を避けることも可能です。相続税の節税対策をしたい場合は、あらかじめ把握しておきましょう。

配偶者居住権

配偶者居住権とは、2020年4月から施行された新しい民法上の権利のことです。配偶者が、被相続人が死亡した際に住んでいた家に、無償で住める権利となっています。例えば、夫が所有していた自宅を子どもが相続したとしても、配偶者居住権により、所有権はない妻でも住むことが可能です。

配偶者居住権は、相続税節税のための権利ではなく、配偶者が不自由なく住み続けられるための権利です。従来、財産を持っていた夫が死亡した際、金融資産は子どもが相続し、家は妻が相続するのが一般的でした。しかし、近年は高齢化の影響から夫が亡くなった後も、妻は10年以上1人で生きていく可能性もあるため、金融資産は妻が相続する場合もあります。その代わり、子どもが家を相続すると、妻が住む場所がなくなってしまいます。

このような状況を避けるため、所有権が無くとも妻が住み続けることができる配偶者居住権が施行されました。そのため、相続税節税のための権利ではありません。

一方、場合によっては節税効果もあります。配偶者居住権を設定すれば、自宅を所有権と配偶者居住権に分けることができ、相続税の負担を減らすことが可能です。しかし、全ての人が節税できるわけではありません。配偶者の年齢が若ければ、配偶者居住権の評価額は上がりますし、小規模宅地等の特例の適用可否によっては、節税対策にならないこともあります。

実際に配偶者居住権が節税に繋がるのかどうか、専門家に相談して決めると良いでしょう。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、住居などを相続する場合に、評価額の最大8割まで減額できる制度です。特例の対象となるのは、原則故人と同居していた相続人ですが、同居していない場合でも条件を満たせば適用される可能性もあります。例えば、以下の通りです。

  • 単身赴任をしていた
  • 老人ホームなどの施設に入居している

場合によっては、同居とみなされるケースもあるため、状況について把握し適用可否について確認すると良いです。また、近年は適用されないケースも増えており、適用されるためには事前に確認すべきこともあります。相続税の負担を避けるためにも、長期的に準備することを心がけましょう。

相似相続控除

相似相続とは、10年以内という短い期間で2次相続が発生することを指します。このような場合、1次相続で支払った相続税の一部が控除され、相続税の負担を抑えることが可能です。しかし、相似相続控除を利用する場合は、1次相続において被相続人が相続税を支払っていなければなりません。

そのため、被相続人が1次相続により、配偶者控除などを利用して相続税を支払っていなかった場合は、相似相続控除は適用されません。

2次相続が発生したら、必ずしも相似相続控除が適用されるわけではないため、あらかじめ確認しておきましょう。

まとめ

家の評価額は、原則土地と建物を区別して評価されます。土地の評価額の計算は、路線価や倍率方式で計算し、建物の評価額は固定資産税評価額と同額です。これらを合計し、算出されたものが家の評価額となります。一軒家やマンションなど、家の形態によって計算方法は異なるため、相続する家の種類がどのようなものなのかあらかじめ把握することが大切です。

一方、家の評価額が分かったところで、相続税を計算することはできません。相続税は、故人が残した相続財産全ての価格が判明して初めて、計算することができます。相続財産ごとに相続税が計算できるわけではないため、注意しましょう。

また、法定相続人の立場によっては、相続税の額が下がる減税制度が適用されることもあります。相続税が減額されるのか、適用可否について確認し相続税の負担を避けましょう。

相続税の節税を検討する場合は、個人で判断するのではなく税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。