【税理士監修】贈与税の時効はいつから?時効が成立しないケースやペナルティを解説

更新日:2023.9.8

贈与税は、生存している他者から財産を受け取った際に発生する税金です。非課税枠の金額を超えた贈与財産には贈与税が発生します。また、贈与税には時効があり、6年を経過すると時効が成立します。「贈与税を支払わなかった場合どうなるのか」「時効を迎えるまで黙っていればバレないのではないか」と、疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、贈与税の時効について詳しく解説します。また、贈与税を支払わない場合のペナルティや、時効が成立しないケースなども併せて紹介するため、贈与の予定がある方に必見の内容です。ぜひ参考にしてみてください。

贈与税の時効期間は原則6年

時効とは、ある一定の期間が経過することで、その状態が法律的に不適当であっても特定の権利を認められる制度です。贈与税の時効は原則6年で、悪質性が高い場合は7年と定められています。
起算日は、贈与があった年の申告期限の翌日(3月16日)です。贈与を受けた日ではないため注意しましょう。なお、起算日から6年(7年)を経過すると時効を迎えることになります。贈与税申告の義務が発生する場合は、受贈した年の翌年2月1日から3月15日までの間に申告を済ませましょう。

贈与税の時効が成立しないケース

贈与があったことを隠し通せれば、時効が成立するのではないかと思う方は多いでしょう。しかし、時効は必ずしも成立するとは限らないため注意が必要です。中には、時効が成立しないケースもあります。

贈与と認められない場合

そもそも、贈与が認められていない場合、贈与税の時効も成立しません。例えば、名義預金は贈与財産ではなく相続財産に該当します。名義預金とは、金融機関口座の名義人と財産の管理者が異なる預貯金のことです。名義預金では口座の名義人にその存在が知らされていないケースが多く、そのような財産は贈与財産ではなく名義預金として相続財産に含まれます。

また、贈与契約書がなく贈与があったことを証明できないケースや、贈与者の判断能力が乏しい場合も、贈与と認められない可能性があります。

贈与の際は、財産を送る側と受け取る側の同意が必要です。受取人が普段使用している口座に入金するとともに、贈与契約書を作成し、贈与があったことを証明できるようにしましょう。

悪質性が高い場合

悪質性の高い脱税行為であっても、法律上は7年の時効が設けられています。しかし、過去には裁判によって時効が認められなかったケースもあるため注意が必要です。平成5年3月24日名古屋地裁の判決で、以下のような事例がありました。

【事例の展開】

1.被告が、贈与の際に公正証書で贈与契約書を作成

2.7年が経過するまでは財産に手を付けず、7年経過後に不動産の名義変更を実施

3.税務調査により贈与があった事実が発覚し、税務署と裁判に発展

4.被告は敗訴し、公正証書の贈与契約書が無効になった

このように、脱税目的で贈与契約書を作成しても、必ずしも時効を迎えられるとは限りません。脱税を図ることは、お金だけでなく社会的信用まで失う恐れがあります。

3年以内に相続が開始された場合

相続開始前3年以内の贈与財産は、相続財産にカウントされるため注意が必要です。贈与後、贈与者が亡くなると贈与により得た財産であっても相続税の課税対象となります。   令和6年以降は3年から7年に延長されます。

贈与で得た財産も他の相続財産と合算され、その金額に応じて相続税が課されます。ただし、受贈時に贈与税を納めていた場合はその分を相続税から控除可能です。しっかりと贈与税を納めておけば、相続時の税額も軽減できる可能性があります。なお、相続税の時効は原則5年です。また、悪質性が高い場合は7年に延長されます。

贈与税が時効を迎える前に発生するペナルティ

贈与税の申告をしなかったときや金額を少なく申告した場合は、税務調査により追徴課税のペナルティが与えられます。ケースに応じて加算される税金の種類が異なるため、注意しましょう。ここでは、税金の種類と内容を詳しく解説します。

無申告加算税

無申告加算税は、申告するのを忘れていたり期限に間に合わなかったりして、無申告の状態となってしまった場合に発生するペナルティです。本来納めるべき贈与税の金額に無申告加算税の税率をかけた金額が課されます。税率は以下の通りです。

贈与税額無申告加算税の税率
期限を過ぎた後自主的に申告した場合5%
50万円以下15%
50万円超20%
悪質性が高い場合40%

無申告加算税はケースに応じて5~15%、最大40%の追徴課税が発生します。税務調査までに申告すれば5%と比較的軽く済むため、無申告に気付いた際はできるだけ早く申告しましょう。

過少申告加算税

過少申告加算税は、申告した金額が少なかった場合に課される税金です。追加で納めることになった金額に、過少申告税率をかけて計算します。

追加で納める贈与税額事前通知から税務調査までに申告した場合の税率税務調査後に申告した場合の税率
期限内に申告した金額か50万円のいずれか少ない方以下の部分5%10%
期限内に申告した金額か50万円のいずれか多い方を超える部分10%15%

※平成29年以降の税率
なお、税務調査や事前通知を受ける前に自身で間違いに気づき申告をした場合、過少申告加算税は課されません。

重加算税

重加算税は、税金の納税を回避することを目的として、あえて贈与税の申告をしなかった場合に課される税金です。ケースに応じて35~40%の追徴課税が発生します。

 平成29年以降の申告期限の贈与で、過去5年以内に無申告加算税か重加算税を課されたことがある場合の税率先のケースに該当しない場合の税率
無申告の場合50%40%
過少申告の場合45%35%

悪質性が高いと判断されると、重加算税が課されます。他の追徴課税と比較して税率が高いため、対象となる贈与税額が大きい場合、重加算税の金額も高額になるでしょう。

延滞税

延滞税は、納付期限までに納税できなかった際に発生する税金です。申告ではなく納税の有無が調査対象となります。延滞税は、納付期限の翌日から納付日までの日数に応じて計算されます。期間が長くなればその分、納付金額も上がっていくため注意しましょう。令和3年1月1日以降の延滞税の割合は以下の通りです。

1. 納期限までの期間および、納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までの期間:年「7.3%」か「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合

2. 納期限の翌日から2ヵ月を経過する日の翌日以後:年「14.6%」か「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合

なお、税率は年度により異なります。国税庁のホームページで確認しましょう。

贈与の無申告が発覚するのはどのようなときか

贈与税を申告しなくてもバレないのではないかと考えている方もいるかもしれません。しかし、実際には、贈与税の無申告があったことは税務調査により発覚する可能性があります。具体的にどのようなタイミングで無申告が発覚するのでしょうか。税務調査が行われる主なタイミングを紹介します。

相続があったとき

相続税の申告をしたり死亡届を役所に提出したり、大きなお金の流れがあったりしたときは、比較的高い確率で税務調査が行われます。税務調査とは、納税対象者がしっかりと申告・納税しているかをチェックするための調査です。

相続と贈与は時期がずれていれば問題ないというわけではありません。相続の実態調査の際に過去のデータも細かくチェックされるため、贈与があったのに贈与税申告をしていない場合、ばれてしまう可能性があります。不正が発覚すれば悪質性に応じてペナルティが発生するため注意しましょう。

不動産登記をしたとき

不動産登記をする際も、税務調査の対象になると言われています。不動産登記とは、不動産を受贈した際に所有権移転をするための手続きのことです。登記上は贈与のような行為が行われているのにも関わらず、贈与税の納税が済んでいない場合は、税務署から指摘を受ける可能性があります。

ただし、納税やペナルティの発生を防ぐために不動産登記をしないという選択をするのは避けましょう。不動産登記を済ませていないと不動産の所有権を証明できないため、不動産の売却や運用に関する手続きを進められなくなる恐れがあります。

贈与税の節税方法

不正を働くと追徴課税のペナルティが発生します。納める税金を少なくして手元に残る資金を増やしたいと考える方は多いですが、脱税行為は控えましょう。法律に則り、適切な方法で節税することが大切です。ここでは、贈与税の代表的な節税方法を3つ紹介します。

110万円の基礎控除以下の金額にする

贈与税には年間110万円の基礎控除があります。基礎控除以下の贈与財産には納税の義務が発生しません。そのため、110万円以下の金額で贈与(暦年贈与)すれば節税できます。

ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、定期贈与とみなされる可能性があります。定期贈与では贈与した金額の総額に対して贈与税が課されるため注意が必要です。異なる時期に異なる金額を贈与し、定期贈与とみなされないよう対策を取りましょう。

また、贈与の際は確実に本人が使用している銀行口座に送金すると共に、贈与契約書を作成しておくのが得策です。税務署に指摘された際に、贈与があった事実を証明できます。

贈与税の非課税制度を利用する

贈与税には複数の非課税制度があります。非課税制度とは、一定額以下の贈与財産には税金が課されなくなる制度のことです。一例は以下のようになります。

・贈与税の配偶者控除:最大2,000万円まで非課税

・住宅取得等資金の贈与:最大1,000万円まで非課税

・教育資金の一括贈与:最大1,500万円まで非課税

・結婚・子育て資金の一括贈与:最大1,000万円まで非課税

非課税制度をうまく利用できれば、贈与税の大幅な節税につながるでしょう。なお、非課税制度の適用時は一定の条件があります。詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。

相続時精算課税制度を選択する

相続時精算課税制度は、贈与時の課税方法の一種です。60歳以上の直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与であれば、暦年贈与だけでなく相続時精算課税制度も選択できます。暦年贈与の非課税枠は110万円ですが、相続時精算課税制度の非課税枠は2,500万円です。2,500万円までは無税となり、2,500万円を超える贈与財産には贈与税が課されます。 令和6年からは相続時精算課税を選択しても、毎年110万円の非課税枠が使えます。

ただし、この制度は納める税金の減額を目的としているわけではありません。贈与時に納める税額は少なくして、相続時にまとめて税金を納める方法です。相続税の課税対象になる財産は増えますが、贈与時の税負担は抑えられます。

まとめ

贈与税には原則6年、悪質性が高い場合は7年の時効があります。ただし、元々贈与が成立していなかったり贈与後3年以内に相続が発生したりすると時効が認められなくなるため、注意が必要です。また、時効を迎える前に税務調査で不正が発覚するとペナルティが与えられる恐れもあります。脱税や不正行為は避けましょう。   ※ 令和6年以降は7年以内
贈与税は合法的に節税することが大切です。贈与税の非課税制度や相続時精算課税制度などを利用することで、贈与時に納める税額を抑えられます。また、節税方法に悩んだ際は専門家に相談するのも方法の一つです。各家庭の状況に合わせて適切な節税方法を提案してくれます。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【執筆実績】「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他、【メッセージ】亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って、相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。