【税理士監修】子供なしの相続で注意したいポイントとは?具体的な例を用いながら解説

更新日:2023.9.8

子供がいない夫婦の一方が亡くなった場合、相続人は配偶者と被相続人の直系尊属または兄弟姉妹になります。すなわち、子供がいないからといって、配偶者がすべての財産を相続できるわけではありません。

子供がいない場合の相続について誤ったイメージを持っていると、実際に相続が発生した際にさまざまなトラブルが起こる恐れが大きいです。本記事では、子供なしの相続における注意点や、事前に実施できる対策などを解説します。

子供なしの場合は誰が相続人になる?

子供がいない夫婦の一方が亡くなり、遺言がない場合、相続人となるのは配偶者と法定相続人である直系尊属または兄弟姉妹です。この章では、相続人を考えるうえで重要な概念である法定相続人と遺言書について解説します。

法定相続人とは

法定相続人とは相続権を有する人を意味する用語です。法定相続人となり得る人は民法で定められており、亡くなった人の配偶者と血縁者が該当します。

被相続人の血縁者は、被相続人との関係によって順位付けられています。順位は以下のとおりです。

  • 第一順位:直系卑属(被相続人の子供または孫)
  • 第二順位:直系尊属(被相続人の親または祖父母)
  • 第三順位:被相続人の兄弟姉妹または甥姪

法定相続人となるのは、被相続人の配偶者と、もっとも順位の高い血縁者のみです。たとえば、被相続人の配偶者・子供・両親が存命である場合、相続権を得るのは配偶者と子供のみとなります。より順位の高い子供がいるため、第二順位である両親には相続権が発生しません。

なお、被相続人の子供が亡くなっているものの孫が存命である場合、孫に相続権が発生します。このように、亡くなっている相続人の下の世代に相続権が発生することを、代襲相続と呼びます。被相続人の配偶者と両親が存命で、子供は亡くなっているものの孫がいる場合、相続権が発生するのは被相続人の配偶者と孫です。

法定相続人ごとの相続割合

法定相続人ごとの相続割合も民法で定められています。民法による相続割合を法定相続分と呼びます。

配偶者がいる場合の法定相続分は以下のとおりです。

  • 配偶者と子供(または孫):配偶者2分の1、子供2分の1
  • 配偶者と親(または祖父母):配偶者3分の2、親3分の1
  • 配偶者と兄弟姉妹(または甥姪):配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1

被相続人に存命の配偶者がいない場合、もっとも順位の高い血縁者がすべての遺産を相続します。また、相続権を持つ血縁者がいない場合は、配偶者がすべての遺産を相続する権利を有します。

なお、法定相続分は必ず守らなければならないものではありません。法定相続人全員が合意した内容であれば、法定相続分以外の割合による遺産分割も可能です。

遺言書がある場合はどうなる?

被相続人による遺言書がある場合は遺言の内容どおりに相続を行います。そのため、遺言書の内容次第で、法定相続人以外が財産を受け取るケースも有り得るのです。

ただし、配偶者および被相続人と近い関係にある血族相続人には、遺留分という最低限の遺産相続分が保障されています。遺留分は遺言書の内容よりも優先される権利です。したがって、遺言の内容が遺留分を侵害するものである場合、該当の相続人は遺留分の権利を主張できます。遺留分の権利は放棄しても問題ありません。

なお、被相続人の兄弟姉妹は法定相続人となり得る立場ではありますが、遺留分の権利は認められていないため注意が必要です。

子供がいない場合の相続で起こりやすいトラブル例

子供がいない夫婦の一方が亡くなった場合の相続で起こりやすいトラブルとして、以下3つの例が挙げられます。

  • 配偶者と血族相続人の関係が悪い
  • 被相続人の前配偶者に子供がいた
  • 代襲相続が発生し相続人の特定が難しくなる

それぞれトラブルとなりやすい理由や考えられる事態について解説します。

配偶者と血族相続人の関係が悪い

法定相続人のうちもっとも順位が高い子供や孫は、被相続人と配偶者の血縁者です(養子や連れ子などの例外有)。ケースバイケースではありますが、長年共に過ごした時間や互いの理解などにより、深い関係が構築されている可能性が高くなります。

一方で、被相続人の血族相続人は、配偶者から見ると義両親や義兄弟姉妹です。一概にはいえませんが、義両親や義兄弟姉妹との関係性が悪いケースは珍しくありません。亡くなった被相続人とは関係が良好であっても、配偶者と義両親は仲が良くないケースは多くみられます。

しかし、配偶者と血族相続人の関係が悪い場合でも、法定相続人である以上は遺産分割協議として話し合いが必要です。法定相続人同士の関係が悪い場合、話し合いが激化する・意見がまとまらないなどのトラブルが起こりやすくなります。

また、配偶者と被相続人の血族親族人の関係がそもそも薄いく、互いの連絡先を知らないケースもあります。特に、義兄弟姉妹とは疎遠になりがちです。疎遠で連絡先がわからない状態では、被相続人の死亡を伝えることができず、遺産分割協議を開始できない可能性も考えられます。

被相続人の前配偶者に子供がいた

被相続人の前配偶者に子供がいたというパターンも、子供がいない夫婦の相続で起こりやすいトラブルのひとつです。

被相続人と現配偶者に子供がいなくても、前配偶者との間に子供がいる場合、その子供は第一順位の法定相続人となります。前配偶者の子供であっても、有する相続権や法定相続分に変わりはありません。

被相続人の前配偶者との子供は、現配偶者との関わりが一切ない・関係性が悪い可能性が高くなります。特に、子供はほかの相続人よりも法定相続分が大きいため、心象の悪さや不満を感じやすいです。

したがって、現配偶者と前配偶者の子供によって行われる遺産分割協議は、進みにくい・トラブルが起こりやすいといえます。

代襲相続が発生し相続人の特定が難しくなる

子供なしの相続で代襲相続が発生すると、子供がいる場合よりも相続人の特定が難しくなる恐れが大きいです。

被相続人の親と兄弟姉妹がいなくても、兄弟姉妹の子供である甥姪がいれば、代襲相続によって甥姪に相続権が発生します。

そもそも兄弟姉妹が法定相続人になるパターンの場合、兄弟姉妹全員を特定するために、被相続人の両親の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。兄弟姉妹が亡くなっているものの甥姪が存命である場合、甥姪に関する戸籍謄本も収集する必要があります。

このように、兄弟姉妹の死亡による代襲相続が発生する場合は必要となる戸籍謄本が多く、相続人の特定そのものが難しくなります。

また、被相続人の甥姪と配偶者は疎遠になっているケースが珍しくありません。法定相続人である甥姪を特定できたとしても、連絡が取れない・遺産分割協議がまとまりにくいなどの恐れが大きくなります。

子供がいない夫婦の相続をスムーズにする方法

子供がいない夫婦の一方が亡くなった場合は、子供がいる場合に比べてトラブルの恐れが大きくなります。相続トラブルが起こるリスクをなるべく低くするためには、事前の対策が大切です。

子供がいない夫婦の相続をスムーズにする効果が期待できる方法として、以下の3つが挙げられます。

  • 遺言書を作成する
  • 配偶者に生前贈与をする
  • 相続人となる人を事前に調べておく

それぞれの方法について詳しく解説します。

遺言書を作成する

遺言書の作成は、相続トラブルを防ぐ手段として効果的です。

被相続人が生前に用意した遺言書があれば、遺言の内容どおりに相続を行うため遺産分割協議の必要がありません。相続トラブルの多くは遺産分割協議に関係するものであるため、遺言書によって相続トラブルのリスクを大きく抑えられます。

遺言書には公正証書遺言と自筆証書遺言の2種類があります。それぞれの違いは以下のとおりです。

  • 公正証書遺言:公証人に遺言内容を口述し、公証人が作成する遺言です。公証役場で作成、証人2人以上の立会が必要、原本が公証役場で保管されるなどの特徴があります。相続開始時に遺言の検認が必要ありません
  • 自筆証書遺言:財産目録以外のすべてを遺言者が自筆で作成する遺言書です。法務局またはそれ以外の場所(自宅など)で保管します。法務局で保管されている場合は検認不要ですが、それ以外の場所で保管されている場合は家庭裁判所で検認を行う必要があります

公正証書遺言は作成に手間がかかりますが、確実に効力のある遺言となり安心です。一方、遺言者が自身で作成する自筆証書遺言は不備のリスクが高く、場合によっては無効になる恐れもあります。

トラブル回避のために遺言を作成するのであれば、公正証書遺言が適しています。また、遺言執行者を決めておくと、相続がよりスムーズになりやすいです。

なお、直系尊属が存命の場合は、相続人に認められる最低限の相続分である遺留分に注意が必要です。遺留分の権利は遺言書よりも優先されるため、遺言によって遺留分を侵害してしまうと、かえってトラブルになる恐れがあります。

配偶者に生前贈与をする

配偶者に渡る財産を多くしたい・配偶者に特定の財産を確実に移転したい場合には、生前贈与が効果的です。

配偶者に生前贈与をすれば、その分の財産を遺産から外すことができます。相続には相続人全員の合意が必要ですが、贈与は贈与を行う人と受ける人が合意すれば実行できるため、配偶者へのスムーズかつ確実な財産移転が可能です。

なお、配偶者への贈与には贈与税の配偶者控除といった特例が適用されます。また、年間の贈与額が110万円までであれば贈与税の基礎控除の範囲内であるため、贈与税が課税されません。相続財産が大きくなりそうである場合、生前贈与によって大きな節税効果も期待できます。

ただし、相続開始前3年以内に行われた贈与による財産額は、相続財産として加算されます。節税目的で生前贈与を行う場合、なるべく早めに実行することが大切です。

相続人となる人を事前に調べておく

子供がいない夫婦間の相続で考えられるトラブルには、配偶者と被相続人の血族が疎遠であるために起こるものが多くあります。そのため、誰が相続人になり得るか事前に調べておくだけでも、相続発生後の手間を小さくできる効果が期待できます。

相続人となり得る人の連絡先も、可能な限り整理しておくことが理想です。起こり得るトラブルを事前に予測する・なるべく準備をしておくなどの対策が、相続の進めやすさに大きく影響を与えます。

まとめ

子供がいない夫婦の場合、相続人は配偶者と被相続人の血族相続人になります。両者の関係性によっては遺産分割協議でトラブルが起きる恐れがあるため注意が必要です。相続トラブルのリスクを抑えるため、遺言の作成や相続人となり得る人の調査など、事前にできる対策を行うのが安心です。

ただし、相続のトラブルは複雑化しやすく、当事者のみでの解決は難しいケースが少なくありません。相続トラブルを確実に解決するためには、無理に当事者のみで解決しようとせず、早めに専門家に相談するのがおすすめです。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。