【税理士監修】株の相続が発生したら?取るべき手続きや株の相続方法について解説

更新日:2023.9.8

故人を偲ぶ暇さえなく、怒涛のようにやってくる相続財産の整理や相続税の計算は、遺族の頭を悩ませるものです。徳に、株の相続は多くの人を悩ませており、相続財産の整理がやっと終わった数年後に、タンスの中から見つかることもあります。

東京証券取引所が発表した2020年度株式分布状況調査の調査結果によると、個人株主の総数は約6,000万人程であり、7年連続で増加傾向にあります。今後も株式投資をおこなう人は増えていくと考えられます。そのため、もしも両親が「株式をやっている」と言っていた場合は、相続税の計算に株式も含まれることを念頭におきましょう。

しかし、株は制度や時代によって値が変わるため、評価額がその都度異なります。そのため、一番は専門家に相談することがおすすめです。

親が株取引をしていたら、まず何をする?

生前、もしも親が「株をやっている」などと言っていた場合、株式の相続があるかもしれません。聞き覚えがある場合は、すぐに行動をおこしましょう。

株の相続は、ほかの相続財産の相続とは異なり、株式の種類によって手続きが異なります。そのため、なるべく早い行動を起こすことで、相続税の締め切りに間に合わせなければなりません。株の相続があると発覚した場合、まずやらなければならないことについて、確認しましょう。

株式の確認をおこなう

株には、以下2種類の株式があります。

  • 上場株式
  • 非上場株式

株式の種類によって、株価の評価が異なるため、真っ先に株式の確認を行ってください。

基本的に、「株をやっている」という発言をしていた場合は、上場株式の場合が多いです。なぜなら、非上場株式は証券取引所に公開されておらず、例えば非上場株式を持っているだろう会社経営や知り合いへの出資などは、「株式をやっている」と言うことはないからです。

そのため、生前「株式をやっている」と言っていたのであれば上場株式だと考えましょう。一方、非上場株式の場合は、誰にもしらせずに持っている可能性が高いため、くまなく探す必要があります。

証券会社が分かるなら連絡する

上場株式の相続は、株式の預け先である証券会社が判明しているか、していないかで、その後の対応が大きく変わります。

証券会社が判明している場合は、証券会社に連絡をし、株式の所有者が死亡したことを伝えます。その後、必要書類を聞き準備しましょう。株式を相続するためには、株式の名義を死亡した人の名前から相続する人の名前に変更し、相続する人用の証券口座に振り替えなければなりません。

預金を相続するときとは異なり、株式の場合は口座そのものを名義変更することはできないため、必ず相続人用の証券口座を用意しましょう。

証券口座、必要書類がそろったあとは、証券会社に申請書を提出します。必要な書類は、以下のとおりです。

  • 戸籍謄本
  • 住民票
  • 本人確認書類
  • 遺産分割協議書
  • 遺言書

また、口座振替の申請書も必要になります。証券会社によって必要書類や提出書類の書式は異なるため、確認しましょう。

証券会社が分からない場合

証券会社が分からない場合は、証券保管振替機構に問い合わせて、情報を開示してもらう必要があります。情報開示をするためには、以下の書類が必要です。

  • 開示請求書
  • 相続人の本人確認書類
  • 被相続人と相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の住所がわかるもの

必要書類や請求書を提出すれば、被相続人が取引していた株式の情報が郵送されます。

株で発生する相続税について

株も相続財産に含まれる財産であるため、価格が大きければ、相続税が発生する可能性もあります。まずは、株の評価額について確認しましょう。

上場株式の相続税評価額

上場株式を評価する場合は、以下4つの額のうち一番低い額を採用して評価します。

  • 相続が発生した日の終値
  • 相続が発生した月の終値の平均額
  • 相続が発生した月の前月の終値の平均額
  • 相続が発生した月の前々月の終値の平均額

証券取引所は、土日や祝日は開いていません。そのため、仮に土日祝日に相続が発生した場合は、相続が発生した日からもっとも近い日を相続発生日と考えます。相続税を減税するためにも、相続財産の額を知ることは大切です。株の評価額をできるだけ下げ、相続税を減らすためにもしっかりと確認しましょう。

終値はインターネットで調べると出てくるため、簡単に計算することが可能です。

非上場株式の相続税評価額

非上場株式は、証券会社が関与しているわけではないため、上場株式の評価額とは異なり、自分たちで計算する必要があります。

計算方法は、以下の4通りです。

  • 類似業種比準方式
  • 純資産評価額方式
  • 併用方式
  • 配当還元方式

上記3つは、原則的評価方式とよび大株主用の評価方法となります。例えば、非上場株式の経営者が亡くなった場合に適用されるものです。

類似業種比準方式は、業種が同じである上場株式の株価を基準にした評価方法であり、純資産評価額方式は仮に会社を手放すことになった場合、株主1人にどれだけの分配金が支給されるのかを基準にします。

併用方式は、類似業種比準方式と純資産評価額方式を合わせて評価する方法で、簡単に計算することはできません。

一方、配当還元方式は特例的評価方式とよばれ、経営していたわけではない少数株主の株式を相続する際に用いられる評価方法です。少数株主が大株主と同じ評価をされるのは不公平であると考えられており、過去の配当を参考にした配当還元方式で評価されるのが一般的とされています。

いずれにせよ、細かい条件が多数あり、初心者が計算するのは困難です。専門家に相談して計算することをおすすめします。

株式を相続するなら遺産分割が必須

相続人が1人のみであれば、遺産分割の必要はありません。しかし、相続人が多数存在する場合、株式もほかの相続財産と同様に分割会議をおこない、分配する必要があります。株式を相続人間で分ける場合、どのような分配方法があるのでしょうか。

現物分割

現物分割では、相続人が株式をそのまま相続します。例えば、2人の法定相続人がおり100株あった場合、1人あたり50株が分配されます。ほかにも、2種類の株式があった場合は、1種類ずつ分配することも可能です。

換価分割

換価分割とは、株式を売却し、現金を相続人間で分配する方法です。株式をすべてお金に換えてしまうため、相続税の計算も楽になります。また、株式に興味関心がない場合も現金に換えてしまうことで関係がなくなるため、おすすめです。現金に換えたあとは、話し合いで分割することもできますし、法定相続分に従って分配することもできます。

代償分割

代償分割とは、1人の相続人だけが株式を相続し代償金をほかの相続人に支払う方法です。

代償金とは、株式を分配する代わりに支払う金額のことを指しています。例えば2人の相続人が存在し、100万円の株式を1人が相続した場合、本来分割する予定だった50万円を、現金でもう1人の相続人に支払うことです。

しかし、株式は種類によっては高騰する場合もあり、1人ですべてを相続するのは不公平だとほかの相続人から言われることもあります。そのため、代償分割はトラブルを引き起こしやすい分割方法と言えるでしょう。

親がタンスに保管していた株式が出てきたら?

2009年以降、株式は電子化されていますが、2009年以前の株式をタンスに保管している人は多いです。電子化のおかげで、被相続人が株式を保有していたのかわかりやすくなりましたが、タンスに株式を保存したままの場合、突然みつかることもあります。相続税の計算も終え、支払いも終えた後に見つかることもあり、タンスに保管された株式の存在は相続人を悩ませるものです。

仮に、タンスに保管されていた株式を見つけた場合は、どう対応したら良いのでしょうか。

まずは株を発行している会社に問い合わせる

まずは、株券の裏面を確認し発行している会社名を確認しましょう。株式を発行している会社が、どの信託銀行と取引しているのかわかったあとは、信託銀行に株主の名義で特別口座を開設すると、株主の権利が確保される救済措置がとれます。しかし、株券自体には利用価値がないため、ただの紙切れとなってしまいます。

株は2009年以降電子化しているため、できるかぎり電子に移行しておくことで遺族も安心するはずです。前もって電子化しておくことも、終活する上で重要だといえるでしょう。

相続税自体に時効がある

株式があとから発見されたことで、「相続税を追加で支払う必要があるのではないか?」と不安に感じる人もいるでしょう。しかし、相続税自体に時効があるため、支払う必要がない可能性もあります。

相続税の時効は除斥期間とよび、5年を超えると相続税の徴収権利がなくなる仕組みです。しかし、うっかり忘れていたわけではなく、わざと見なかったことにした場合は悪意があるとみなされ、時効の期間は7年に延長されます。

タンス内にある株式のように、相続財産があとから発見された場合は、悪意がないと判断されるため時効が成立することもあります。しかし、税務署は情報収集能力が非常に高く、時効が成立する可能性は低いでしょう。

正しい申告をすることは義務であるため、把握漏れのないよう、財産調査は念入りに行いましょう。

株の未受領配当金にも時効がある

相続税だけではなく、株の未受領配当金にも時効が存在します。

亡くなった株主の代わりに株を受け取れる期間は、民法では10年と定められていますが、株式発行会社によって期間は異なります。多くの場合、3~5年とされているため定款を確認しましょう。

仮に期間内の場合、相続人が複数いるのであれば、再度遺産分割会議をおこなう必要があります。

【注意】株式の相続で気を付けなければならないこと

株式の相続をおこなう場合、気を付けなければならないことがいくつかあります。相続財産として株式が見つかった場合は、相続税の計算に含まれてしまうため、確実に相続できるように注意点について確認しましょう。

株式を相続するなら名義変更が必須

株式を売却するのではなく、現物をそのまま相続する場合は、不動産を相続する場合と同様に名義変更が必須となります。

上場株式の名義を変更する場合は、証券取引所で変更しましょう。証券取引所で名義を変更する場合は、以下の書類が必要になります。

  • 株式名義書換請求書
  • 取引口座引き継ぎの念書
  • 相続人全員の同意書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の出生から死亡まで書かれた戸籍謄本
  • 相続人の戸籍謄本

証券取引所に上記の書類を提出した後は、株式を発行している株式会社にて、名義変更の手続きをおこないます。一般的には、証券取引所が代行しておこなってくれるため、こちらから手続きを進めることはありません。

一方、非上場株式の場合は、証券取引所ではなく株式を発行している株式会社に問い合わせなければなりません。上場株式とは名義変更の手続きが異なるため、直接会社に問い合わせて確認しましょう。

売却のタイミングは焦らない

仮に、株式を売却して相続する場合、売却のタイミングを焦ってはいけません。株式が下がったタイミングで売却すると、相続人全員が損することになるため、売却のタイミングは見きわめるようにしましょう。

株式に興味がなければ、売却するタイミングもわからない可能性が高いです。そのため、ファイナンシャルプランナーなどの株に詳しい専門家に聞きながら、売却すると良いでしょう。

譲渡制限付き株式もある

株式は、すべて相続人側で売却できるわけではありません。譲渡制限付きの株式の場合、相続したにもかかわらず売却できないことがあります。譲渡制限付きの株式が高騰していると、売却ができずもったいないです。そのため、仮に譲渡制限付きの株式を相続した場合は、扱い方について弁護士などの専門家に相談しましょう。

代償分割で支払う代償金の計算は公平に

代償分割で株式を分割する場合、相続のトラブルに発展する可能性が非常に高いです。例えば、代償分割は株式をすべて相続した人が、ほかの相続人への代償として現金を支払う必要があります。この現金が、株式の分割に相当していれば問題ありませんが、多くの場合多額の現金を持っていることはありません。

また、今後確実に上がる株式であると分かって相続した場合は、価値も高くなるため「将来的に高くなるのであれば、代償金もそれに合わせてほしい」と、ほかの相続人が思うのも想像できます。

代償分割をして代償金を払う場合は、相続人同士でしっかりと話し合い、お互いが納得できる金額を出しましょう。仮に、現金で用意できない場合は、代償分割ではなく換価分割、もしくは現物分割をおこなうほうが相続トラブルに発展しません。

分割方法についても考え、トラブルを避けることも大切です。

準確定申告が必要なこともある

仮に、株式に利益が出ていた場合、死亡した本人に代わり確定申告ができる、準確定申告をおこなう必要があります。

確定申告と準確定申告は、申告期限に違いがあります。確定申告は、納税者の1月1日~12月31日までの所得を申告しますが、準確定申告は、1月1日から死亡した日までの利益や収入に関して申告する義務があります。さらに、死亡したと知った日、もしくは相続が発生した日の翌日から4カ月以内に申告しなければなりません。

相続税の申告は、相続が発生した日の翌日から10カ月以内であるため、相続税の申告よりも先におこなう必要があります。

準確定申告をおこなう場合は、以下の書類が必要です。

  • 確定申告書A
  • 死亡した人の所得税、復興特別所得税の確定申告書付表
  • 死亡した人の収入が分かる書類(源泉徴収票など)
  • 死亡した人の控除証明書
  • 死亡した人の医療費の領収書
  • 委任状(準確定申告用)

準確定申告が必要になるのは、20万円以上の利益が発生した場合のみです。

また、証券口座が源泉徴収ありの特定口座で開設されている場合は、申告が不要になります。

一方、源泉徴収なしの特定口座、一般口座の場合は準確定申告をしなければなりません。そのため、故人がどの口座を開設していたのかも確認しましょう。

まとめ

株式の相続をする場合は、一般的な相続とは少々異なります。相続財産のなかに株式があると判明した場合は、以下のとおり相続の準備を進めましょう。

  • 株式の種類を確認する
  • 証券会社や証券保管振替機構に連絡する
  • 利益が出ていたのか確認する
  • 相続するなら名義変更をする

また、株式をタンスに保管したまま忘れている人も多いです。相続財産の整理をしているうちに、タンスから見つかることもあるでしょう。タンスに保管されていた株式を見つけてしまった場合は、隠したりせずに正直に税務署や専門家へ相談することをおすすめします。

株式の相続は、相続方法によっては相続人間でトラブルに発展する可能性も高く、できるかぎり専門家を仲介人として話し合うほうが良いです。

相続税の計算など、被相続人が死亡したあとはやるべきことが多くあります。焦らずに1つずつ整理できるよう、専門家へ相談しましょう。

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相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。