【税理士監修】遺族厚生年金とは?遺族年金の説明から支給金額について徹底解説
更新日:2023.9.8
遺族厚生年金とは、遺族が受け取ることのできる年金の1つです。年金は、厚生年金と国民年金の2種類がありますが、遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた被保険者が亡くなった場合に受け取ることができます。遺族厚生年金を受け取るには複雑な条件があり、必ずしもすべての人が受け取れるわけではありません。そのため、受け取ることができるようにしっかりと条件を確認しましょう。
また、配偶者がいる場合、夫が亡くなった場合だけではなく妻が亡くなった場合についても知っておくと、のちのち役立つこともあります。近年共働きは当たり前となりつつあるため、妻が亡くなってしまったときのことも、今の内に考えておくと良いでしょう。
遺族厚生年金に限らず、誰かが亡くなってしまった場合は、個人で解決するのではなく専門家へ相談することが必須です。しかし、あらかじめ知識として知っておいた方が安心することもあるため、確認しておきましょう。
この記事では、遺族厚生年金について、詳細な説明から注意点まで幅広く解説します。
目次
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、遺族が受け取れる遺族年金のことです。遺族年金には、いくつか種類があるため、遺族厚生年金について知るためにはまず、遺族年金について確認する必要があります。
家計の助けになっていた大黒柱が亡くなってしまうと、遺された家族は生活するのが大変になってしまいます。そういった不遇な状況を支援するために、公的に支給される年金が遺族年金です。しかし、遺族年金を受け取るにはいくつか条件があるため、必ず確認しておきましょう。
特に遺族厚生年金とは、厚生年金に加入していた方の遺族が受け取ることのできる年金です。自身がどの年金に加入しているのか、確認できるようにしておきましょう。
遺族年金について
遺族年金とは、年金に加入していた被保険者が亡くなった場合、遺された家族である遺族が受け取ることのできる年金です。遺族年金は社会保障制度の1つであり、知識として知っておけば、いざというときに頼りになります。
遺族年金は加入している年金によって種類が異なります。年金は国民年金と厚生年金の2種類が存在するため、遺族年金の種類も、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つです。平成27年9月30日まではこれら2つのほかに、遺族共済年金もありましたが、平成27年10月1日以降、遺族厚生年金に一元化されました。
ここでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金について説明します。
遺族基礎年金
遺族基礎年金とは、国民年金に加入している方が亡くなった場合に、遺族が受け取れる年金です。国民年金は皆年金であるため、フリーランスをはじめとする個人事業主や、企業に属している会社員など、誰もが加入しています。そのため、一定の条件を満たしている方であれば、遺族基礎年金の受取が可能です。
国民基礎年金を受け取ることができるのは、以下のとおりです。
- 配偶者
- 子
しかし、配偶者と子には条件があります。条件を以下の表で確認しましょう。
子 | 18歳未満もしくは、20歳未満で障害等級1級または2級である |
配偶者 | 上記の子を持つ配偶者 |
平成26年まで、遺族基礎年金の条件は子供がいる妻と子供のみとされていました。そのため、妻を亡くした子供のいる夫は受け取ることができませんでした。しかし、平成26年4月以降は、父子家庭への考えも改まり、子供のいる配偶者へと条件が変わりました。
一方、たとえ上記の条件に当てはまっていたとしても、保険料を滞納している場合は受け取ることができません。注意しましょう。
遺族厚生年金・遺族共済年金
遺族厚生年金は、厚生年金に加入している会社員や公務員などが死亡した際に、遺族に支給される年金です。遺族基礎年金とプラスして遺族厚生年金が支給されるため、多額の年金を受け取ることが可能となります。
厚生年金に加入できる人は会社員と公務員のみであるため、それ以外の人が亡くなった場合は受け取れません。しかし、故人がかつて会社に勤めており、条件を満たしていれば受け取ることもできます。
遺族厚生年金を受け取れる人は、以下のとおりです。
- 妻
- 子
- 夫
- 父母
- 孫
- 祖父母
遺族基礎年金とは異なり、遺族厚生年金は、子供のいない妻や夫でも受け取ることができます。しかし、条件は遺族基礎年金より厳しいため、必ずしも受け取れるわけではありません。さらに、男女で受給可能年齢の条件も定まっており、男女の格差も生じています。遺族基礎年金のように男女の格差がなくなるかはわかりませんが、いつかは改正される日が来ることもあるでしょう。現在はまだ格差はなくなっていないため、厳しい条件です。
詳細な受給対象者の条件は、後述する遺族厚生年金を受給するための条件に記載しています。確認しておきましょう。
遺族厚生年金を受給するための条件
遺族厚生年金を受給できる条件は、厚生年金保険法によって定まっています。ここでは、遺族厚生年金を受け取れる条件や対象者について、詳しく説明します。
遺族厚生年金を受給できる要件
遺族厚生年金を受給できる条件は、亡くなった人に対する条件となります。つまり、亡くなった人が以下の要件のいずれかを満たしていれば受給の条件を満たしたと判断されます。
- 厚生年金に加入していた人
- 厚生年金加入中に、初診日がある病気もしくは怪我が原因、かつ初診日から5年以内に死亡した人
- 障害等級1級、2級の障害厚生年金を受け取っていた人
- 老齢厚生年金を受け取っていた人
- 老齢厚生年金を受け取れる期間を満たしていた人
または、保険料納付を滞納していないことも条件になります。
遺族厚生年金を受給できる対象者
遺族厚生年金を受け取れる対象者は、故人によって生計が成り立っていた方です。受け取れる優先順位は、以下のとおりです。
- 配偶者、子
- 父母
- 孫
- 祖父母
とくに配偶者と子では、さらに細かい優先順位があり、以下のとおりとなります。
- 子供がいる妻・夫
- 子供
- 子供のいない妻・夫
優先順位だけではなく、さらに細かい条件もあるため確認しましょう。以下の表にまとめました。
妻 | 子がいなくても受け取ることができるが、30歳未満の妻は5年間のみ受給できる |
子 | 18歳になった年度の3月31日までの人。もしくは20歳未満の障害等級が1級もしくは2級にあたる人。 |
夫 | 死亡当時55歳以上限定であり、受給開始は60歳から。しかし、遺族基礎年金を受け取れる条件を満たしていれば、55歳から受給可能。 |
父母 | 死亡当時55歳以上限定。受給開始は60歳から。 |
孫 | 子と同じ条件。 |
祖父母 | 父母と同じ条件。 |
遺族厚生年金は、遺族基礎年金よりも条件が細かく、さらに厳しいです。同じ配偶者だとしても妻と夫で差も生じるため、年齢や条件によっては受け取れないこともあるでしょう。さらに、故人によって生計が成り立っていたことが条件となっているため、生計を個人によって支えられていたと証明できない場合は受給資格がありません。生計を維持していたと証明できる条件は、以下のとおりです。
- 個人と同居していた。もしくは扶養されていた。
- 前年の収入が850万円未満であった
つまり、夫が妻よりも稼いでいる場合はほとんど受け取ることがでません。遺族厚生年金は、遺族基礎年金と比較するとまだ男女の格差が残っています。そのため、夫の場合、遺族厚生年金はほとんど受け取ることができない点について、知っておきましょう。
遺族厚生年金を受給できる期間
遺族厚生年金を受給できる期間は、以下のとおりです。
妻 | 30歳以上であれば一生涯。30歳未満の場合は5年間のみ。 |
子供 | 18歳まで |
夫、父母、祖父母 | 55歳以上であれば60歳から一生涯受給可能。しかし、遺族基礎年金を受け取っている子供がいる場合は60歳未満からでも受給可能。 |
遺族厚生年金は対象者の条件だけではなく、受給できる期間にも条件があります。とくに子供のいない30歳未満の妻は5年間のみという厳しい条件があるため、あらかじめ確認しておくことが大切です。
遺族厚生年金の支給金額について
遺族厚生年金の支給額を知るためには、故人が厚生年金に加入している間、どの程度の収入を得ていたかを知る必要があります。ここでは、遺族厚生年金の支給金額について説明します。
遺族厚生年金の支給金額を調べるには
遺族厚生年金の支給金額を調べるためには、故人の標準報酬月額の平均で計算をおこないます。標準報酬月額の計算は、平成15(2003)年3月までと4月以降の2種類で計算をおこないます。平成15(2003)年3月という基準が設定されているのは、同年4月以降、賞与の考え方が変わるからです。同年3月までは、賞与は厚生年金保険料の計算に必要とされておらず、年金の受給に賞与は関係していませんでした。
しかし、同年4月以降からは、賞与も厚生年金保険料に関係するようになったため、計算方法に違いが生じています。平成15(2003)年4月以降から厚生年金に加入している方は関係ありませんが、それ以前から加入している方は少し計算が複雑になるため、確認しておきましょう。
さらに、遺族厚生年金は老齢厚生年金の4分の3が受給額とされています。これらを踏まえた上で遺族厚生年金の支給金額の計算方法は、以下のとおりです。
遺族厚生年金=老齢厚生年金×3/4 |
老齢厚生年金=平成15(2003)年3月までの厚生年金加入月数×7.125/1000×3月までの平均報酬月額+(平成15年(2003)4月以降の厚生年金加入月数×5.481/1000×4月以降の平均報酬月額) |
加入月数が300未満の場合は、300月で計算されます。300月は年に換算すると25年です。そのため、25年未満の方は全員300月で計算します。
また、子供がいる場合は遺族基礎年金もプラスして支給されます。遺族基礎年金の計算方法は以下の通りです。
遺族基礎年金=777,800円+子供の数に合わせた加算額 |
子供が2人までは各223,800円/3人以上は各74,600円 |
遺族基礎年金の金額もプラスして、いくら支給されるのか確認しましょう。
【簡単】遺族厚生年金支給額早見表
計算式を理解していても、実際に計算するのは大変です。そのため、簡単に確認できる遺族厚生年金受給一覧表を作成しました。自身の平均報酬月額に近いところを見つけて確認してみましょう。
計算する上で、加入月数は300月、子供がいる場合は1人と仮定しています。また、平成15年4月以降に加入している人として計算をしています。
夫の平均報酬月額\妻 | 子供がいる(遺族基礎年金+遺族厚生年金) | 子供がいない(遺族厚生年金のみ) |
25万 | 約83,000円+約26,000円/月 | 約26,000円/月 |
35万 | 約83,000円+約36,000円/月 | 約36,000円/月 |
50万 | 約83,000円+約51,000円/月 | 約51,000円/月 |
このとおり、給与が高ければ高いほど、遺族厚生年金の金額は上がります。ご自身の報酬月額に合わせて確認してみましょう。
遺族厚生年金の受給額が上がるケース(加算)
遺族厚生年金の受給額が、さらにあがる場合があります。各条件によって加算額が変わるため、確認しましょう。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算とは、遺族厚生年金に加算できる給付金の一種です。遺族基礎年金は子供のいない妻、もしくは18歳以上の独立した子供を持っている妻は受け取ることができません。しかし、夫が死亡した段階で40歳以上であり子供もいない妻は、中高齢寡婦加算という給付金を受け取ることができます。期間は40歳から65歳までの間であり、65歳を迎えて老齢年金を受け取るようになるまでは、中高齢寡婦加算が適用されます。
中高齢寡婦加算で加算される金額は年額で583,400円です。基礎年金を受け取っていた子が18歳を迎えたタイミングでも受給可能です。月に換算すると約48,000円にもなるため、知っておいて損はないでしょう。
経過的寡婦加算
65歳を超えると中高齢寡婦加算の支給が停止される代わりに、経過的寡婦加算が支給されます。これは、老齢基礎年金額が中高齢寡婦加算額未満の場合に適用されるものであり、昭和31(1956)年4月1日以降に生まれた人には適用されません。適用される場合は、一生涯受け取ることができます。
遺族厚生年金についての注意点
遺族厚生年金について説明しました。ここでは、遺族厚生年金に関する注意点についていくつか説明します。
妻が亡くなった場合の夫の対応
妻が亡くなった場合、55歳以上の夫のみが遺族厚生年金を受け取ることができます。そのため、もしも共働きをしている場合は、妻が死亡した際の保険で備えておく必要があるでしょう。
住宅ローンが共同名義の場合や、生活費は妻が出していた場合など、妻の収入も生活の一部であることは多々あります。そのため、妻が亡くなったあとも問題なく生活できるよう、収入保障保険へ加入することをおすすめします。収入保障保険は、保険期間をあらかじめ設定し、期間内に死亡した場合、遺族に年金形式で保険金が支給される保険です。
近年は共働きが当たり前となっています。夫だけの稼ぎではなく、妻も同様に稼いでいる家庭は多いです。もしもの時に備えるためにも、保険を見直すことも検討しましょう。
遺族厚生年金には税金がかかる?
遺族厚生年金は非課税所得であるため、税金はかかりません。いくらもらっていたとしても、税金はかからないため安心してください。しかし、遺族厚生年金以外の所得がある場合は、確定申告が必要になる場合もあります。
離婚していた場合はどうなる?
基本的に離婚した場合、遺族厚生年金を受け取ることはできません。しかし、子供がいる場合は、遺族基礎年金を受給できる場合もあります。遺族厚生年金を受け取ることができる対象者は、生計をサポートしていたかどうかです。養育費を支払っていた場合は、遺族厚生年金を受け取ることが可能になる場合もあります。
しかし、断言するには詳細な情報や条件が必要なため、専門家へ相談すると良いでしょう。
再婚したらどうなる?
再婚した場合、遺族厚生年金は受け取ることができません。遺族基礎年金や加算される給付金も受け取ることができなくなります。再婚とは、入籍だけではなく事実婚も当てはまります。事実婚とは、共同生活をしている場合や、婚姻の気持ちがお互いにある場合を指しますが、ただ同棲をしているだけでは当てはまらないこともあります。
しかし、事実婚や再婚の事実があるにも関わらず手続きをせずに受け取っていると、不正受給とみなされることもあります。この場合は罰金が発生することもあるため、再婚した時や「事実婚かもしれない」と感じた場合は、速やかに手続きをおこないましょう。
まとめ
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。これらは、故人に生計を維持してもらっていた人が対象となるものですが、複雑な条件が多く、適用されるかどうかはその人次第で変わります。自分は受給可能なのかどうかを確認するためには、専門家に相談すると良いでしょう。また、遺族年金に税金はかかりませんが、相続税が発生することもあります。故人を偲ぶ時間も必要ではありますが、すぐに専門家に相談できるよう、体制を整えておくことも大切です。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。