養子縁組は本当に相続税対策になる?実子との違いや注意点を解説

養子縁組をする二世帯・夫婦

養子縁組は、血のつながりがない人と法的な親子関係を結ぶ制度で、相続税対策としても活用できる方法の一つです。ただし、制度には注意点があり、安易に進めると後々トラブルを招くこともあります。

本記事では、養子縁組の基本的な仕組みや種類をはじめ、相続税対策としてのメリットや活用する注意点を紹介します。家族に迎え入れる大切な取り組みだからこそ、十分に納得したうえで決断しましょう。

養子縁組とは

養子縁組とは、血縁のない者同士に法律上の親子関係を成立させる仕組みです。養子は養親(養父母)の実子と同じ「嫡出子」の身分を取得し、戸籍にも養親の子として記載されます。さらに養子は法定相続人となり、養親が亡くなった際には実子と同等に財産を受け取る権利を持ちます。つまり、法律上の親子関係を結ぶことで、社会的にも家族として認められるのです。

養子縁組の制度が大切なのは、親子関係を整えるだけでなく、生活の安定や社会的役割の保障につながる点にあります。例えば、身寄りのない子を迎える場合や、配偶者の連れ子を自分の子として育てる場合です。また相続税の節税につながる場合があり、資産承継の一つとしても取り入れられています。養子縁組は子どもの福祉を軸に、多様な目的で活用されている制度です。

養子縁組の種類

養子縁組

養子縁組は、普通養子縁組特別養子縁組に区分されます。それぞれ成立の要件や法律効果が異なり、相続における扱いにも違いがあります。以下で詳しく見ていきましょう。

普通養子縁組

普通養子縁組は、実親との関係を残したまま養親との親子関係を新たに築ける制度です。手続きはシンプルで、養子縁組届を作成し市区町村役場へ提出すれば成立します。戸籍には実父母と養父母の双方が記載され、続柄は「養子(養女)」と表示されます。養子は実親・養親いずれの相続人にもなれるのが特徴です。

さらに、養子本人が配偶者や子どもを残さず先に亡くなった場合には、その遺産を実親と養親の両方が相続できるケースもあります。普通養子縁組は、一般的に行われる養子縁組の方法です。

特別養子縁組

特別養子縁組は、子どもの健やかな成長を一番に考え、家庭裁判所の審判で成立する制度です。養親となる夫婦は6か月以上の試験養育を行い、審査で要件を満たした場合にのみ認められます。対象となるのは原則として0歳以上15歳未満の子どもです。ただし、すでに養親のもとで監護されている場合は、18歳未満まで申請可能な例外があります。

成立すると実親との親子関係は終了し、養親のみが法律上の親になります。戸籍上も養親が実親として登録され、続柄は「長男」「長女」と表記され、実子と同様の扱いを受けます。

養子は養親にのみ相続権を持ち、実親の財産を相続できません。たとえ実親が死亡しても代襲相続は認められず、法的なつながりは完全に断たれます。特別養子縁組はあくまで子どもの養育環境を守るための制度であり、相続税対策として利用されることは基本的にありません。

参考:特別養子縁組制度について|こども家庭庁

関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?

養子縁組による相続税対策のメリット

養子縁組は、家族関係を築く制度であると同時に、相続税対策としても活用できる場合があります。ここからは、養子縁組が相続税対策に有効となる具体的なメリットを解説します。

基礎控除額が増える

相続税には、遺産に課税されるかどうかを決める非課税枠(基礎控除)が設けられています。計算式は、3,000万円+600万円 × 法定相続人の人数です。

例えば相続人が2人なら、基礎控除額は3,000万円+600万円×2=4,200万円となり、この範囲の遺産には相続税がかかりません。養子縁組で相続人が増えれば、控除額も増えて課税対象の遺産を抑えられます。

なお、養子の数が無制限に認められるわけではなく、相続税法上の制限があります。詳しくはセクション「養子縁組における相続の注意点」の「法定相続人の数に制限がある」で解説していますので、合わせてご確認ください。

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?

生命保険・死亡退職金の非課税枠が増える

養子縁組で法定相続人が増えるメリットは、生命保険金や死亡退職金にも及びます。これらは相続税法上「みなし相続財産」とされ、500万円 × 法定相続人の人数までが非課税になります。

例えば、生命保険金1,500万円を受け取る場合を考えてみましょう。相続人が2人なら500万円×2=1,000万円が非課税枠となり、課税対象は残りの500万円だけです。

養子縁組によって相続人が増えれば非課税限度額も広がり、多くの保険金や退職金を税負担なく受け取れます。結果として、課税対象となる遺産総額を小さくできるのです。

参考:No.4108 相続税がかからない財産|国税庁

関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説

相続税率の軽減につながる

養子縁組は、相続税の負担を和らげる効果もあります。日本の相続税は累進課税制度をとっており、相続額が大きいほど税率が上がります。しかし養子縁組で相続人が増えると遺産が分散し、一人当たりの取得額が減少します。その結果、適用される税率区分が下がり、相続税全体が軽くなる場合があるのです。

例えば、配偶者だけに遺産を相続させるよりも、配偶者と養子2人で分けたほうが一人当たりの相続額は小さくなります。結果として、各人に適用される税率も低くなかもしれません。

相続税の計算は複雑であり、効果は遺産の総額や相続人の人数・構成によって異なります。資産規模が大きい方は、専門家にシミュレーションを依頼すると安心です。

相続税対策に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

財産継承の対象が拡大する

養子縁組には、相続税の節税だけでなく、財産を承継できる対象者を広げられるメリットもあります。法律上の親子関係を結ぶことで、血縁でない人にも相続権を与えられるのです。

例えば「実子はいないが長年支えてくれた甥を跡継ぎにしたい」「家業を共に守ってきた従業員に財産を託したい」といった思いも、養子縁組で形にできます。また、配偶者の連れ子を養子にすれば、その子は継父母の財産を相続可能です。養子にも実子と変わらない相続権が認められるため、家族の状況に合わせて柔軟な承継プランを描ける点も魅力と言えます。

養子縁組における相続の注意点

注意

養子縁組は、相続税対策として効果を発揮しますが、思わぬデメリットや注意するべき点もあります。ここでは、養子縁組を検討する際にあらかじめ押さえておきたい注意点を解説します。

遺産分割でもめるリスクがある

養子縁組によって家族関係が変わると、将来の遺産分割協議が複雑になる可能性があります。養子も実子と同じ法定相続人になるため、実子がいる家庭で養子を迎えれば、実子1人当たりの取り分が減るからです。実子が不満を抱き、話し合いが難航したり、感情的な対立に発展したりするケースもあります。

遺産分割でもめるリスクを防ぐには、養子縁組を決める前に家族と丁寧に話し合い、理解を得ることが欠かせません。「なぜ養子を迎えたいのか」「将来どのように財産を分けたいのか」を率直に説明することで、不安を和らげられる場合があります。

さらに、遺言書を用意しておき、養子を含めた相続人それぞれにどの財産をどの程度渡すのかを明記しておくことも有効です。養子縁組は家族の絆を深める力を持ちますが、関係に影を落とす可能性もあるため、将来を見据えた準備を進めましょう。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

相続税の2割加算の対象になる

相続税には、相続人の続柄によって税額が2割加算される特例があります。配偶者・父母・子以外の人が相続する場合、本来の税額に20%が上乗せされる仕組みです。この制度は、本来なら二度課税されるべき相続が一度省略される「世代飛ばし」を防ぐために設けられています。

養子縁組で特に留意するべきポイントは、孫を養子にしたケースです。孫は祖父母から見て血縁上は二親等にあたり、実子が健在であれば2割加算の対象になります。たとえ法律上は養子で一親等になっても、血縁関係を基準に加算が適用されるのです。

ただし、例外として孫養子でも2割加算とならない場合があります。それは、孫が代襲相続人(本来相続人である子が先に死亡したため代わりに相続人となった孫)に該当するケースです。大切な人を養子に迎えることは尊い選択ですが、状況によっては税負担がかえって増加する可能性もある点は覚えておきましょう。

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

税務署からの否認リスクが高まる

養子縁組を相続税対策だけの目的で行った場合、税務署に認められない可能性があります。「子どもの福祉」を守るための制度であり、節税だけを目的とした不自然な縁組は趣旨に反すると判断されやすいからです。

親子関係を結ぶ実態がないと見なされれば、養子は法定相続人として認められず、結果的に想定していた節税効果も得られなくなります。

実際に短絡的な養子縁組よりも、生前贈与や遺言による配分などを併用したほうが、家族の理解を得やすい場合もあります。大切なのは「その人を本当に子として迎えたいか」という意思を持てるかどうかです。相続や贈与の方法にはそれぞれメリット・デメリットがあります。必要に応じて専門家に相談しながら、全体のバランスを踏まえて慎重に判断することが望ましいでしょう。

相続や贈与の方法に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

法定相続人の数に制限がある

養子縁組による節税効果は、養子を増やせば無制限に広がるものではなく、法律で上限が定められています。具体的には、実子がいる場合は養子は1人まで、実子がいない場合でも2人までしか相続税の計算上は認められません。

例えば、実子が1人の人が孫3人すべてを養子にしても、相続税上カウントされるのは1人分のみです。残りの2人は計算上、除外されます。制限は基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠に適用されるため、限度を正しく理解しておくことが大切です。

代襲相続の条件から外れてしまう

代襲相続とは、本来の相続人が先に亡くなった場合に、子どもが代わりに相続する制度です。しかし養子縁組では、親子関係は縁組成立の時点から始まります。そのため、縁組成立前にすでに子どもがいた養子予定者の場合、その子どもは養親にとって法的な孫とはならず、代襲相続人にもなれません

例えば、あなたが甥を養子に迎えたとしましょう。甥に縁組前から子どもがいた場合、その子どもは「養親の孫」には当たらないため代襲相続は認められません。逆に、縁組成立後に生まれた子どもであれば、養親にとって法的に孫となり、甥が先に亡くなった場合には代襲相続できます。

財産を誰に託したいかを考える際には、縁組成立の前後で子どもの法的立場が変わる点を理解しておくことが重要です。

参考:養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権の有無|国税庁

再婚者の連れ子は養子縁組しなければ相続人になれない

再婚相手に子ども(連れ子)がいても、そのままでは継父母との間に法的な親子関係は生まれません。したがって、相続人にもならないのです。「財産を残したい」と考えるなら、養子縁組をして戸籍上も親子関係を結ぶ必要があります。養子縁組が成立すれば、連れ子は養親の実子と同じ第一順位の相続人となり、実親からも相続する権利を持ちます。

例えば、再婚相手の子を養子に迎えれば、その子は実母と継父の双方から相続できる立場になります。子どもにとっては安心につながるでしょう。日常を共にする家族だからこそ、制度を利用し「名実ともに親子」となっておくことが、将来のトラブル防止につながります。

養子縁組の解消は難しい

一度成立した養子縁組を解消するのは、決して簡単ではありません。普通養子縁組の場合、養親と養子が合意すれば役所に離縁届を出して関係を終えられます。

しかし、養親と養子のどちらかが同意しない場合や養子が15歳未満である場合には、家庭裁判所の調停や審判が必要になります。場合によっては訴訟にまで至ることもあります。養親の一方的な希望だけでは認められず、虐待や著しい非行など子どもの利益を害する事情がなければ許可されません。

実際に「思っていた以上に関係が難しかった」と感じても、すぐに離れることはできないのです。養子縁組は検討の段階から将来にわたる影響まで見据え、丁寧に判断を下すことが望まれます。

まとめ

養子縁組は、相続税対策として有効な方法の一つです。法定相続人を増やすことで、基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠が広がり、節税につながります。また、血縁関係のない方に財産を残すことも可能です。

ただし、遺産分割でのトラブルや相続税の2割加算、税務署から否認されるリスク、さらに法定相続人の数に上限があることなど、注意しなければならない点も多くあります。

養子縁組にはメリットとデメリットの両面があるため、状況に合わせた判断が欠かせません。実際に検討される際には、専門的な知識を持つ税理士に相談し、最適な方法を一緒に考えることをおすすめします。今からできることを一つずつ整理しながら、将来の安心につなげていきましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。