【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

更新日:2023.9.8

小規模宅地等の特例とは、相続税の計算において亡くなった人が保有していた土地の相続税評価額を、最大80%も削減できる特例を指します。保有していた土地の中には、事業に使用していた土地、貸していた土地も含まれていますが、特例が適用されれば土地にかかる税金を大幅に下げることが可能です。節税効果が非常に高いため、相続税が発生する方は必ず確認しましょう。

しかし、最大80%も相続税評価額を減額できることから、その要件は厳しく複雑なものとなっています。さらに、すべての土地に適用できるわけではなく、要件を一つひとつ確認しなければなりません。

そこでこの記事では、小規模宅地等の特例が適用される条件や、対象となる相続人と土地、さらに申告に必要な書類について解説しています。具体的に対象となる土地や対象にならない注意点についても記載しているため、参考にしてみてください。

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族が保有していた土地の相続税評価額を最大80%減額する特例です。

相続税評価額とは、相続税を計算する際に必要となる元の金額のことを指しており、例えば評価額が6,000万円の土地の場合、最大4,800万円も評価額を減額することが可能です。相続税自体を減額するのではなく、相続税の計算に必要な評価額を減額させるという点が重要です。

相続税の元となる評価額の80%が削減されれば、必然的に相続税も減額されます。しかし、80%の減額をおこなうためには条件がいくつもあり、複雑に重なっているため確認が必要です。

小規模宅地等の特例を使った控除額の計算

土地の評価額を決めるためには、都市部であれば路線価と地積を基に計算が可能です。路線価が設定されているのは市街地のみであるため、郊外や集落地の場合は路線価ではなく倍率方式で計算することになります。

ここでは路線価の指定がされている市街地を例に考えてみましょう。

例えば200m2の土地の路線価が20万円の場合、相続税評価額の計算は以下のとおりです。

200m2×20万円=4,000万円

仮に4,000万円の相続税評価額に特例を適用すると、最大で80%分の3,200万円の減額が可能となるため、土地の評価額は以下のとおり計算できます。

4,000万円×(1-0.8)=800万円

このように、最大で80%の減額が可能になるだけで土地の評価額が大幅に下がります。

路線価は、国税庁のホームページで確認できます。令和5年6月時点で、平成28年度から令和4年度までの路線価を確認できます。土地の評価額を知りたい場合に活用しましょう。

https://www.rosenka.nta.go.jp/

小規模宅地等の特例の対象となる土地

具体的には、以下の土地が対象となります。

  • 特定居住用宅地等
  • 特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等
  • 貸付事業用宅地等

特定居住用宅地等

特定居住用宅地等とは、亡くなった被相続人や被相続人と生計を同一にしていた親族が、居住用に使っていた土地などのことを指します。被相続人が実際に住んでいた土地はもちろん対象となりますが、生計を同一にしていた親族が別で住んでいた土地も対象となります。

例えば、子供が大学に進学するために実家を出て親からの仕送りで生活していた場合、子供が住んでいた土地は特定居住用宅地として認定されます。その場合も、特例を受けることができるため、確認しておきましょう。

特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、被相続人又は被相続人と生計を一にする親族が事業で使っていた土地のことを指し、一方で、特定同族会社事業用宅地等とは、特定同族会社が事業のために使っていた土地のことを指しています。被相続人が自宅用の土地と事業用の土地を別々に所有していた場合、どちらにも特例の適用が認められます。

特定同族会社とは、同族会社の一種です。二つを厳密に分けると、同族会社は3つの株主グループの持ち株が50%超えている会社であり、特定同族会社は1つのグループで持ち株が50%超えている会社を指します。どちらも社長一族と言っても過言ではありませんが、特定同族会社の方が社長一族により近いとみなしても良いでしょう。

貸付事業用宅地等

被相続人又は被相続人と生計を一にする親族が貸付事業に使っていた土地を、貸付事業用宅地等と言います。この場合も特例が適用されるため詳しく確認しておきましょう。

貸付事業とは、主にアパート経営、マンション経営、駐車場経営などの事業を指します。

しかし、平成30年度の税制改正により、相続開始前3年以内に貸付事業を始めた土地に関しては、原則として特例の対象とならないことが決まりました。これは相続税対策として、直前に不動産事業を営むような動きを規制するものです。特例を適用させるためには事業を開始した年月が重要となるため、確認しておきましょう。

小規模宅地等の特例の注意点

小規模宅地等の特例を適用させるためにはいくつか注意点があります。

特定居住用宅地等について、主に注意が必要な以下の3つのケースを詳しく見ていきましょう。

  • 分譲マンションを相続した場合
  • 被相続人が老人ホームに入居したまま死亡した場合
  • 被相続人と2世帯住宅で暮らしている場合

分譲マンションを相続した場合

相続税の申告において分譲マンションは、土地と建物を分けて相続税評価の対象とします。しかし、小規模宅地等の特例の適用は、建物と一体化した土地の敷地のみが対象です。そのため、建物の評価額は減額されないため、注意しましょう。

被相続人が老人ホームに入居したまま亡くなった場合

被相続人が老人ホームに入居している場合、原則住んでいた土地は特定居住用宅地等に当てはまらないものの、一定の要件を満たしていれば適用の対象となります。その要件とは、具体的に以下のとおりです。

  • 被相続人が要介護または要支援などの認定を受けている
  • 被相続人が入居した老人ホームが特別養護老人ホームや有料老人ホームなどである
  • 被相続人の自宅が貸付されておらず、かつ、被相続人と生計を同一にしていた親族以外の人が居住していない

また、被相続人が障害者認定を受けた後、老人ホームではなく障害者支援施設などに入居していた場合でも特例は適用されます。

具体的な施設の種類は、国税庁のホームページに記載されているため、確認しておきましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

被相続人と2世帯住宅で暮らしている場合

2世帯住宅でも特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は適用できます。内部で行き来ができない2世帯住宅でも適用可能です。ただし、区分所有登記されている2世帯住宅は、例外を除き特例の適用はできません。2世帯住宅で居住している方は確認しておきましょう。

小規模宅地等の特例を利用するときの手続き・添付書類

小規模宅地等の特例を利用するためには、相続税申告の際に必要な書類を添付する必要があります。ここでは、原則必要とされている書類について説明します。

全ての相続人が分かる戸籍謄本

被相続人のすべての相続人を明らかにしている戸籍謄本、または図形式の法定相続情報一覧図が必要となります。これらは被相続人と相続人の関係を証明するためのものであるため必須です。

法定相続情報一覧は図法務局のホームページから記載例を確認できるため、記載例に則って記載しましょう。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html

遺言書または遺産分割協議書の写し

小規模宅地等の特例を適用するためには、原則として遺産分割協議が終わっていることが前提とされます。そのため、遺言書または遺産分割協議書の写しの添付が必須です。相続税の申告は10カ月以内とされていますが、もしも申告期限までに遺産分割が間に合わなかった場合は、申告期限後3年以内の遺産分割協議の分割見込書を提出してください。

相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書に押印したものと同一の印鑑証明書を提出します。相続人全員の証明書が必要となりますが、もしも相続人の中に外国籍の方がいる場合は、印鑑証明書の代わりにサイン証明書を提出してください。

まとめ

小規模宅地等の特例の適用ができれば、相続税を大幅に削減することができ、節税対策にもなります。しかし、適用するのは特定の要件に当てはまっている場合のみであるため、入念に確認しておきましょう。

さらに、遺言書の提出や老人ホームに入居後の対応など、生前に対策しなければならないことも多々あります。このことからも、終活に入るにあたり、小規模宅地等の特例を適用させるために必要な書類などの準備を怠らないようにしましょう。

小規模宅地等の特例は、相続税評価額を最大80%も削減できる分、その要件は複雑です。相続税の申告の10カ月は長いようで実は短く、対応すべきことが多く存在します。そのため、小規模宅地等の特例が適用可能なのか判断が難しいと感じた場合は、すぐに税理士へ相談しましょう。

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監修者

竹内 英雄

竹内 英雄 小谷野税理士法人 税理士 中小企業診断士

85年大手銀行入行、2016年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【講演実績】公益財団法人不動産流通推進センター、株式会社きんざい、他多数の講演実績【メッセージ】相続の手続きは専門性が高い分野ですが、私の銀行員経験、多数の講演経験を活かして、難しいことを易しく丁寧に説明します。初めての経験であっても気軽に、安心して相談して下さい。