遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

遺留分対策のイメージ

遺留分侵害額請求には、時効である法律で定められた期間制限があります。この期間を過ぎてしまうと、原則として請求する権利を失ってしまいます。遺留分を侵害された場合に適切に権利を行使するためには、消滅時効と除斥期間について正しく理解することが不可欠です。

本記事では、遺留分侵害額請求の時効の期間と、その期間内に何をすべきか、そして時効の完成を避ける方法について詳しく解説します。

遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が権利を行使できる期間に制限が設けられています。この期間は民法によって定められており、「時効」と「除斥期間」の2種類があります。それぞれの期間の開始時期と性質が異なるため、正確に理解しておくことが重要です。

以下より、これらの期間制限について詳しく見ていきましょう。

遺留分侵害を知ってから1年

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しないと、時効によって消滅します。

この「知った時」とは、単に贈与や遺贈があったことだけでなく、それが遺留分を侵害することを認識したタイミングです。つまり、遺留分侵害額請求権を行使できる状況であることを認識した時点のことを指します。

参考:遺留分侵害額の請求 | 裁判所

相続開始から10年

遺留分侵害額請求権には、遺留分権利者が遺留分の侵害を知らなかった場合でも、相続開始の時から10年を経過すると消滅する期間制限があります。相続開始とは、被相続人が亡くなった時を指します。

この10年の期間は「除斥期間」と呼ばれ、時効とは異なり、期間の進行を止めることはできません。相続が開始してから10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は自動的に消滅してしまうのです。

遺留分侵害額請求は期間制限が厳格なため、不安や疑問がある場合は相続に詳しい税理士への相談をおすすめします。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

遺留分侵害額請求の時効を止める方法

相続に関する書類手続き

遺留分侵害額請求権には1年という時効期間が存在しますが、この時効の完成は防ぐことが可能です。ここでは、遺留分侵害額請求権の1年の時効を止めるための具体的な方法について解説します。

内容証明郵便で意思表示を行う

遺留分侵害額請求権の1年の時効を止めるためには、相手方に遺留分侵害額を請求する意思表示を行う必要があります。この意思表示の方法に法律上の決まりはありませんが、後々の争いを避けるために、配達証明付きの内容証明郵便を利用することが強く推奨されます。

内容証明郵便の送付により、遺留分侵害額請求の意思表示をしたという証拠を残すことができ、時効の完成を6ヵ月間先延ばしにすることが可能です。これは法律上「催告」と呼ばれます。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

請求によって時効の更新と完成猶予を行う

遺留分侵害額請求権の時効は、内容証明郵便による催告により6ヵ月間の完成猶予を得ることができます。ただし、この6ヵ月以内に訴訟提起等の法的手続きを行わなければ、時効は完成してしまいます。

さらに裁判によって権利が確定したり、相手方が請求を認めたりした場合には、時効は「更新」され、それまでの期間がリセットされて新たに時効期間が進行します。

ただし相続開始から10年の除斥期間は、時効のように完成猶予や更新といった方法でその進行を止めることはできません。

遺留分侵害額請求後の手続きと注意点

遺留分侵害額請求の意思表示を行い、時効の完成を猶予または更新した後は、実際に遺留分を取り戻すための手続きを進める必要があります。しかし、ここでもいくつか注意すべき点があります。

ここでは、遺留分侵害額請求後の手続きの流れと、特に留意すべき点について説明します。

金銭請求権の時効は5年

遺留分侵害額請求権を行使すると、相手方に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利が発生します。この金銭請求権には民法166条に基づき5年の消滅時効が適用されます。時効の起算点は、遺留分侵害額請求権を行使した時点です。

この5年の時効期間内に相手方との話し合いや裁判手続きなどを進め、金銭の支払いを受けるか、時効の更新措置をとる必要があります。

参考:遺留分侵害額の請求調停 | 裁判所

遺言の有効性を争う場合の注意点

遺言書によって遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求を行うほかに、遺言書の有効性を争う方法もあります。例えば、遺言書に無効の原因がある場合、遺言全体または一部が無効となる可能性があるのです。

遺言書の有効性を争う場合は遺留分侵害額請求と並行して、あるいは予備的に主張することも可能です。ただし遺言無効の主張は法的な判断が必要となるため、専門的な知識が必要になります。法的な判断が必要な状況では、弁護士に相談をして対応するのが望ましいでしょう。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額を計算するには、まず遺留分を算定するための基礎となる財産を確定しなくてはいけません。

これにはまず、相続開始時の被相続人の財産に、相続開始前10年以内の生前贈与や遺贈の価額を加え、相続債務を差し引いて計算します。 次にこの基礎となる財産の価額に、法定相続分と遺留分の割合をかけて個別の遺留分額を算出します。 

遺留分侵害額は、この遺留分額から、遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益の価額を差し引き、さらに相続で得た財産の価額を差し引いて、承継した相続債務があれば加算して計算します。

上記を踏まえた計算式は以下のようになります。

遺留分を算定するための財産の価額=相続開始時の財産+生前贈与の価額-相続債務

遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額×個別的遺留分割合

遺留分侵害額=遺留分額-(遺贈または特別受益の価額+相続により取得した財産の価額)+承継した相続債務の額

例えば、相続財産1億円、相続人である子への10年前の生前贈与2,000万円、相続債務1,000万円の場合、遺留分侵害額は以下のようになります。

1億円+2,000万円-1,000万円=1億1,000万円

相手との話し合いで解決が難しい場合は法的手続きも視野に

遺留分侵害額請求の意思表示を行った後は、まずは相手方との話し合いによる解決を目指すのが一般的です。しかし、話し合いで合意に至らない場合や、相手方が話し合いに応じない場合は、法的手続きに進む必要があります。

具体的には、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てることが可能です。もし調停でも解決できない場合は、最終的に遺留分侵害額請求訴訟を提起して、裁判所の判断を求めることになります。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説

遺留分侵害額請求に関する相談

相続・贈与に関する専門家(税理士・弁護士・司法書士)

遺留分侵害額請求は、法的な知識が必要となる複雑な手続きを伴う場合があります。また、相続人同士だけだと感情的な対立も生じがちです。スムーズかつ適切に手続きを進めるためには、第三者として専門家を挟むことをおすすめします。ここでは、遺留分侵害額請求において、それぞれの手続きに特化した相談先をご紹介します。

弁護士への相談

遺留分侵害額請求に関する不明点は法律が関係するため、弁護士への相談が有効です。弁護士は遺留分の計算や相手方との交渉、内容証明郵便の作成・送付、そして調停や訴訟といった法的手続き全般において専門的にサポートしてくれます。

特に相手方が請求に応じない場合や、遺言書の有効性に疑問がある場合など、法的な争いになる可能性があるケースでは、弁護士に依頼することで適切な法的手段をとることができるでしょう。

税理士への相談

遺留分侵害額請求に関する相手方との交渉や法的な手続きについて、税理士は直接関与できません。これらの対応が必要な場合は、弁護士に相談する必要があります。

ただし、遺留分侵害額請求によって財産を取得した場合は、相続税の申告が必要になることがあります。その場合は速やかに信頼できる税理士に相談しましょう。税理士は相続税に関する専門家です。遺留分侵害額請求によって取得した財産の評価や、それを含めた相続税の計算、申告手続きについて正確なアドバイスとサポートを提供してくれます。

特に、相続財産に不動産などが含まれる場合や、生前贈与がある場合の評価は複雑になることがあります。そのようなケースでは、特に税理士の専門知識によるサポートが不可欠です。税理士は遺留分侵害額請求が認められた後の相続税の修正申告にも対応してくれるので、早めに依頼するといいでしょう。

相続税に関する疑問や遺留分取得後の申告について不安がある場合は、相続税に詳しい税理士に依頼すると、適切に手続きを進められるうえ、税務上の問題を未然に防ぐことが期待できます。

関連記事:【税理士監修】生前贈与にも遺留分が適用される?侵害請求のやり方や注意点を解説

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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