[相続税と贈与税の基礎知識]それぞれの違いと税率・金額を知っておきましょう

遺産相続や贈与について考える夫婦

相続税と贈与税は、いずれも財産を無償で取得した際に関わる税金ですが、それぞれの制度には大きな違いがあります。本記事では、相続税と贈与税の基本的な違いや具体的な税率・控除額、どちらを選ぶべきかの判断ポイント等について解説します。

さらに、不動産や生命保険といった特定の財産に関する課税関係や疑問が生じた場合の相談先についても紹介します。

相続税と贈与税とは

相続税は被相続人(亡くなった方)より財産を受け取った場合に課せられ、贈与税は生前に財産を譲り受けた場合に課せられる国税です。共通するのはいずれも受け取る側が納税するという点です。

しかし、相続税と贈与税では制度の目的や計算方法などに違いがあります。ここでは、それぞれの税金の基本的な性質について解説します。

相続税について

相続税は、亡くなった人の財産=遺産を相続した人に課税される税金です。遺産の範囲には、被相続人が所有していた現金、預貯金、株式などの金融資産、不動産、さらに借金などの負債も含まれます。また、遺言によって特定の個人や団体に財産を無償で与える遺贈の場合も相続税の課税対象となります。

相続税は遺産の総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して課税され、その税率は遺産額によって変動します。遺産を相続した人は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に相続税の申告と納税を行う義務があります。

贈与税について

贈与税は、生きている個人から財産を無償でもらった際に課税される税金です。これは生前贈与と呼ばれ、贈与者と受贈者の間で贈与契約が成立した時点、つまり財産が贈与された時点で課税されます。

贈与税の計算方法には、主に「暦年課税」と「相続時精算課税制度」の2つがあります。暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して課税されます。年間110万円以下の贈与であれば、贈与税はかかりません。定期贈与とみなされないよう注意が必要ですが、この基礎控除を活用することで計画的な贈与が可能となります。

関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説 

相続税と贈与税の主な違い

贈与税の申告書

相続税と贈与税では、主に課税されるタイミング、税率、利用できる控除や特例制度などに違いがあります。ここでは、この2つの税金の違いについて見比べてみましょう。

税率の違い

一般的に、同じ金額の財産を一度に移転する場合、贈与税の方が相続税よりも高い税率が適用される傾向があります。これは、贈与が生前に任意で行えるのに対し、相続は避けられない事象であるため、贈与によって相続税を回避する行為を防ぐ目的で、贈与税の税率が相対的に高く設定されているためです。

相続税の税率は、取得金額に応じて10%から55%までの8段階で設定された累進課税方式です。課税対象は、遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた課税遺産総額で、いったん法定相続分に基づいて相続税の総額を計算し、最終的に各相続人の実際の取得割合に応じて課税されます。

一方、贈与税では、暦年課税制度の場合、年間110万円の基礎控除を超える部分に対して課税されます。贈与税も累進課税方式が採用されており、同じ課税額であっても相続税より高い税率が適用されやすくなっています。

また、贈与税には「一般贈与」と「特例贈与」の2通りあり、特例贈与(直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与)の方が税率がやや緩やかに設定されています。たとえば、一般贈与では3,000万円超の部分に55%の税率が適用されますが、特例贈与では4,500万円超から適用されます。

このように一度に多額の財産を移転する場合は相続税の方が有利になり、複数年に分けて少額ずつ贈与する場合は贈与税(暦年課税の基礎控除利用)が有利になるケースが多いでしょう。

参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

関連記事:相続税と贈与税の税率は?控除額は?どちらが得?に答えます

控除や特例制度の違い

相続税と贈与税は、適用される控除や特例制度に違いがあります。

相続税には、相続財産の総額から差し引かれる基礎控除配偶者の税額を軽減する配偶者の税額軽減、特定の居住用宅地などの評価額を減額する小規模宅地等の特例などがあります。これらの特例は、相続の状況に応じて適用要件が細かく定められています。

一方、贈与税には、年間110万円の基礎控除の他に、特定の目的のための贈与に対する非課税枠が設けられています。たとえば、結婚期間が20年以上の夫婦間での居住用不動産またはその購入資金の贈与について、基礎控除とは別に最高2,000万円まで控除できる「配偶者控除(おしどり贈与)」があります。また、子や孫への「教育資金の一括贈与制度」では1,500万円まで、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」では最大1,000万円の非課税枠が認められています。

これらの控除や特例は、相続税と贈与税のいずれかしか適用できないものもあります。金額によっては税額が大きく変動する可能性もあるため、財産の種類や金額、受贈者との関係などを考慮して適用できる控除や特例制度を確認することが大切です。

納税する時期の違い

相続税と贈与税は、その性質上、納税すべきタイミングが異なります。

相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告し、納税する必要があります。たとえば、1月6日に亡くなった場合、その年の11月6日が申告期限となります。この10ヵ月の期間内に遺産分割協議や相続財産の評価といった様々な手続きを行う必要があります。期限に遅れるとペナルティが課される可能性があるため、計画的に手続きを進めることが大切です。申告書の提出は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に行います。

贈与税は、財産の贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に申告し、納税することになっています。これは1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与に対して課税されるためです。例えば、2025年中に贈与を受けた場合、2026年の2月1日から3月15日までに申告と納税を行います。申告期限である3月15日が土日祝日の場合は、翌開庁日が期限となります。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の順位とは?法定相続人の意味や相続割合、具体的な例などを解説

相続と贈与どちらを選ぶべきか

相続と贈与のどちらを選ぶべきか、個人の状況によって異なります。単純に納税額だけでなく、財産の種類、家族構成、将来のライフプランなどを総合的に考慮して判断する必要もあります。ここでは税額の比較方法や、それぞれの税金が有利になるケースについて解説します。

税額を比較する場合の考え方

相続税と贈与税のどちらが有利かは、一度に贈与するのか、複数年に分けて贈与するのかによって税額は大きく変動します。

すでに解説しましたが、一括贈与では基礎控除額が高い相続税の方が有利です。しかし、計画的に贈与を行うのであれば、年間110万円の基礎控除を活用することで贈与税の方が有利になる可能性が高くなります。

ただし、これは相続する金額や適用する控除によっても異なります。また、遺産分割については家族構成にも影響を受けるため、一概にどちらが有利とは言い切れません。

また、相続税や贈与税については度々税制改正が行われており、税率や条件が変わってしまう可能性もあります。そういった点も予測し、シミュレーションして比較検討することが大切です。

相続で対応するのが良いケース

例えば遺産の総額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、そもそも相続税はかからないため、無理に生前贈与を行う必要はありません。

また、相続には「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった優遇措置が用意されており、これらを活用すれば大幅な節税が可能です。特に自宅などの不動産は、相続時に評価額が大きくなりがちですが、一定の条件を満たせば最大80%の評価減が適用されることもあります。

さらに、贈与で不動産を移転すると、不動産取得税や登録免許税などのコストが発生する点にも注意が必要です。こうしたコストや制度面を総合的に考えると、相続で引き継いだ方が経済的に有利になるケースも多く見られます。

関連記事:【税理士監修】内縁の妻は相続可能?内縁関係で相続を行うためのポイントを解説

生前贈与が有利なケース

生前贈与は、計画的に行うことで相続税の負担を軽減できる場合があります。

たとえば、年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりません。この基礎控除を毎年活用して長期間にわたって贈与を続けることで、将来の相続財産を減らし、結果として相続税を節税することが可能です。

また、相続税の税率が高くなることが予想される場合、贈与税を支払ってでも生前贈与を行った方が、トータルの税負担が軽くなることもあります。特に財産総額が多いケースでは、相続税の累進課税を考慮すると、早期に贈与を行うことで高い税率を回避できる可能性があります。

関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説

土地など不動産の相続税・贈与税

家の相続税、贈与税

土地など不動産は相続や贈与において特に考慮すべき財産です。これらの財産にかかる相続税や贈与税は、現金や預貯金とは評価方法が異なるため、税額の計算も複雑になります。

不動産の評価額には、固定資産税評価額や相続税評価額が用いられ、これらの評価額は一般的に実勢価格よりも低い傾向にあるため、現金で引き渡すよりも税負担が抑えられる場合があります。

しかし、不動産の種類や所在地、評価方法によって税額は大きく変動します。また、不動産の贈与や相続には、税金以外にも登録免許税がかかります。贈与による不動産の名義変更は、相続による場合よりも登録免許税の税率が高くなるため注意が必要です。生前贈与を検討する際には、将来発生しうる相続税だけでなく、贈与にかかるこれらの諸費用も含めて総合的に判断する必要があります。

また、不動産の生前贈与では小規模宅地等の特例が適用できないため慎重に検討しましょう。

関連記事:【税理士監修】不動産は生前贈与するべき?相続との違いやメリット、注意点を解説

生命保険と相続税・贈与税の関係

生命保険証券

生命保険の死亡保険金は「誰が契約したか」「誰が保険をかけられたか(被保険者)」「誰が受け取るか(受取人)」の組み合わせによって、相続税・所得税・贈与税のいずれかが課税されます。

相続税がかかる場合

もっとも一般的なのが、契約者と被保険者が同一人物で、受取人が法定相続人の場合です。このケースでは、死亡保険金は相続財産とみなされ相続税の対象になります。

ただし、死亡保険金には非課税枠があり、法定相続人1人あたり500万円までは課税されません。たとえば、相続人が2人いれば合計1,000万円までが非課税です。相続税対策として生命保険を活用するメリットはここにあります。

所得税がかかる場合

次に、契約者と受取人が同一人物で、被保険者が別人のケースです。たとえば、子どもが親に保険をかけて自分が保険金を受け取るような場合。この場合は保険金は一時所得となり、所得税の対象になります。

贈与税がかかる場合

最後に、契約者・被保険者・受取人がすべて異なるケースです。たとえば、祖父が契約して父に保険をかけ、保険金の受取人が孫である場合。このような構成だと、保険金は贈与とみなされ贈与税の課税対象となります。

贈与税は他の税よりも税率が高くなる傾向があるため、契約形態を誤ると想定以上の税負担が生じることもあります。

生命保険は、受け取り方や契約内容によって税金の種類や金額が大きく変わるため、相続対策として利用する場合は、専門家に相談して最適な契約形態を選ぶことが大切です。

関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説

まとめ

贈与税と相続税は、大切な財産を家族や子孫により多く残すためにぜひ理解しておきたい制度です。それぞれの仕組みや税率、適用される控除・特例に違いがあるため、状況によってどちらを選ぶべきかは変わっています。

生前に少しずつ贈与すれば節税につながる場合もあれば、相続によって特例を活用した方が負担を抑えられることもあります。また、生命保険の活用や契約形態によっても税の扱いが変わるため注意が必要です。

こうした判断を正しく行うには、税理士などの専門家に相談することが欠かせません。税理士は相続や贈与に関する知識が豊富で、財産内容や家族構成に応じた最適な節税方法や手続きを提案してくれます。公的な相談窓口としては、税務署や国税庁の電話相談センター、税理士会が実施する無料相談なども利用可能です。早めの相談と準備が、スムーズな手続きと税負担の軽減につながります。

相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

また、金融機関不動産関係者葬儀関連企業税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。

監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。