事業承継による相続の手続きと相続税の支払いについて

事業承継に悩む夫婦

中小企業の経営において、事業承継の問題は避けて通ることはできません。事業承継は、単なる経営者の交代だけでなく、会社の将来を左右するターニングポイントにもなります。

事業承継を行う際には、後継者への経営の引き継ぎだけではなく、相続に関わる手続きや税金の支払いなどが発生します。そのため、事業承継を行う前に制度について十分に理解しておくことが大切です。

本記事では、事業承継に伴う相続の手続きや相続税の支払いについて詳しく解説します。

事業承継の定義とは?

事業承継とは、会社や個人事業の経営を、現経営者から後継者へ引き継ぐ行為です。単に財産を受け渡すだけではなく、事業を継続・発展させるために事業承継は欠かせません。

非上場株式、事業用資産、負債などの引継ぎも行われます。事業承継を行うためには、後継者の選定や育成なども必要になります。

一般的な相続と異なり、事業承継は単なる個人資産の分配ではありません。企業を存続させるために、計画的に準備を進める必要があります。そのため、単なる相続と比べて専門的な知識が必要です。

参考:事業承継を知る|中小企業庁

事業承継で引き継がれる財産

事業承継で対象となる財産は、一般的な相続とは異なります。中小企業や個人事業主の場合、事業の継続に必要な資産が引き継がれるため、それぞれどのような手続きが必要か理解しておきましょう。

非上場株式

中小企業の事業承継において、重要な財産のひとつが「非上場株式」です。非上場株式は市場では自由に売買されないため、相続税や贈与税を計算する際の評価が難しいです。

適切な評価を行わなければ、税負担が大きくなってしまう可能性もあります。基本的には相続や税務の専門家に相談するようにしましょう。

非上場株式の承継・相続税に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

個人事業の事業用資産

個人事業主が後継者に事業を引き継ぐ際は、事業用の土地や建物、機械、車両、備品などの「事業用資産」が対象になります。事業を円滑に継続するために不可欠なものであり、名義変更や税務の手続きも早めに準備するのが望ましいです。

また、個人事業主には「個人版事業承継税制」があり、条件を満たすことで事業用資産にかかる相続税や贈与税が軽減される場合があります。対象となる資産には、事業用宅地や建物、減価償却資産などが含まれるため、忘れずにチェックしておきましょう。

事業承継における相続税計算の流れ

相続税申告書

事業承継の際には多額の相続税が課されることも珍しくありません。スムーズに納税ができるように、事前に相続税について計算しておくのがおすすめです。ここでは、事業承継における相続税の流れについて紹介します。

相続財産の総額を把握

まずは相続する財産の総額を把握しましょう。財産には、現金や預貯金不動産有価証券などに加えて、非上場株式設備・在庫などの事業用資産も含まれるので注意してください。

また、非上場株式のような評価が難しい財産については、専門家に相談するのがおすすめです。正しく納税できない可能性があるため、相続財産は漏れなく把握しておきましょう。

課税価格を求める

次に課税価格の計算を行います。総額から葬儀費用や借入金などの債務を差し引きましょう。

また、基礎控除額を差し引く必要もあります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求められます。事業継承のケースでは滅多にはありませんが、基礎控除額を差し引いて、課税価格が0以下になった場合は、相続税を支払う必要はありません。

課税価格の按分

次に、控除後の課税価格を法定相続分に基づいて後継者ごとに按分します。例えば、課税価格が3,000万円、後継者が3人だった場合は、1人あたりの課税価格は1,000万円となります。

相続税総額を計算する

最後に求めた課税価格に応じた税率をかけます。例えば、課税価格が1,000万円の場合は、税率が10%となるため、100万円が税額となります。課税価格が、1,000万円を超える場合は、控除も適用されるので忘れずに反映しましょう。

また、事業承継においては、配偶者や子供以外の人物に財産を譲り渡すケースも多いです。その場合は、税額控除を差し引く前の税額にその20%相当額を加算しなければいけません。

相続する人物との関係によって、税額が異なる可能性があることは理解しておきましょう。

参考:相続税の税率|国税庁

参考:相続税の計算|国税庁

参考:相続税計算シミュレーション|相続税のチェスター

事業承継税制を活用するのもおすすめ

中小企業の事業承継では、後継者に対する相続税や贈与税が、大きな負担になることがあります。こうした問題を軽減するために設けられているのが「事業承継税制」です

事業承継税制をうまく使えば、非上場株式や事業用資産の相続・贈与にかかる税金の納税が猶予され、最終的に免除されることもあります。

事業承継税制には、平成21年に始まった「一般措置」と、平成30年の税制改正で導入された「特例措置」の2種類があります。特例措置では、納税猶予の対象が発行済株式のすべて(100%)に広がり、納税猶予割合も100%となるなど、より手厚い支援が受けられます。

しかし、特例措置を活用するには「特例承継計画」を令和8年3月31日までに提出する必要があるので注意しましょう。

制度を利用するには、会社、先代経営者、後継者それぞれに要件があります。例えば、会社は中小企業であり、資産管理会社でないことが条件です。先代経営者は贈与前に代表権と株式の過半数を持っていたこと、後継者は贈与時または相続開始時に役員であることなど複雑な要件があるため、事前に確認しておきましょう。

手続きは複雑であり、個人で対応するのは難しいケースも多いです。そのため、事業承継の専門家に相談しながら手続きを進めるのがおすすめです。

事業承継税制の手続きに関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

参考:法人版事業承継税制|国税庁

事業承継におけるリスク

事業承継は、単なる名義変更ではありません。経営が不安定になる、後継者同士の人間関係が悪化するなど、さまざまなリスクが存在します。どのようなリスクがあるかを事前に把握しておき、対策を講じることが事業承継においては重要です。

ここでは、事業承継におけるリスクについて詳しく解説します。

経営権が確保できなくなる

後継者に会社の運営を任せるためには、ある程度の株式を後継者が所有していなければいけません。しかし、非上場株式が複数の後継者に分散してしまうと、後継者が経営判断を下しにくくなる可能性があります。

社内に複数の「物言う株主」が生まれれば、意思決定が滞ってしまいます。経営権が確保できなくなるという事態を避けるには、生前贈与を活用して、株式を後継者に渡しておくことが重要です。後継者同士で株式の割合に関する合意を形成しておくことも欠かせません。

後継者同士が対立する

事業を引き継ぐ後継者に資産を集中させると、他の後継者が不満を抱くことがあります。特に株式や不動産などの価値が高い場合は、それがトラブルの火種になってしまうかもしれません。後継者同士の関係が悪化しないためにも、早めに事業承継については相談しておきましょう。

負債の取り扱い

事業承継では、資産と一緒に負債も引き継がれます。特に個人事業主の場合は、事業用の借入金や連帯保証なども相続の対象になります。

債務の全容を把握しないまま承継してしまうと、後になって想定外の返済義務が発覚してしまい、トラブルに発展するかもしれません。後継者が過剰な負担を抱えないよう、財務内容を事前に整理し、場合によっては借入条件の見直しなども検討しておきましょう。

事業承継に関する相談先

税務の相談先(税理士・弁護士)

事業承継は、経営の引き継ぎに加えて相続や税金の問題も絡むため、気軽に知人や友人に相談できない点が悩みどころです。このような場合、ひとりで抱え込まずに早めに信頼できる相談先を見つけておくことが重要です。ここでは、事業承継に関する相談先について紹介します。

無料相談窓口

費用をかけずに話を聞いてみたいという方におすすめなのが、国や自治体が設けている無料の相談窓口です。代表的なのが「事業承継・引継ぎ支援センター」であり、中小企業を対象に、事業承継全般についてのアドバイスを無料で行っています。

初めての相談にも丁寧に対応してくれるため、事業承継について悩んでいる方は、一度足を運んでみるとよいでしょう。また、商工会議所や商工会でも、会員向けに相談窓口を設けていることがあります。事業承継の基本的な流れや制度の説明、現在の課題整理、必要に応じた専門家の紹介など、幅広くサポートしてもらえます。

何から相談をすれば良いかわからない方もいるでしょう。そういった方は、まずは無料相談窓口を活用してみてください。

税理士や弁護士などの専門家

実務レベルの相談や具体的な手続きを進める際は、税理士や弁護士などの専門家を活用するのがおすすめです。

税理士は、自社株の評価、相続税・贈与税の計算、事業承継税制の活用などのサポートをしてくれる税務のプロフェッショナルです。財務状況に応じて、負担をできるだけ抑えるための方法を考えてくれます。

法的なトラブルが絡んでいる場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。例えば、後継者間で意見が食い違いそうなときや、相続割合に関する問題がある場合などは、弁護士に相談することで問題が解決する可能性があります。

専門家への相談は基本的には有料です。しかし、会社の事情に応じた具体的な提案をしてもらえるため、安心して事業承継を進められるというメリットがあります。特に手続きが複雑な事業承継税制の活用を考えている方は、ぜひ専門家への相談を検討してみてください。

関連記事:事業承継税制とは?制度の概要や目的をわかりやすく解説

まとめ

事業承継は、中小企業にとって避けては通れません。単に経営者が代わるというだけでなく、税金の支払いは後継人同士の調整など、様々な問題が起こる可能性があります。財産の分け方や感情のもつれが原因で、思わぬトラブルに発展することも珍しくありません。

事業承継税制は、税金の負担を軽くしてくれる制度ですが、利用するためには細かな要件をチェックして、複雑な手続きを行わなければいけません。1人で対応するには時間がかかってしまうため、専門家に相談しつつ手続きを進めるのがおすすめです。

他にも、非上場株式の評価や相続税の計算といった専門的な部分は、税理士を始めとしたプロの力を借りましょう。一人で悩まず、信頼できる専門家とともに、会社の未来を見据えた承継計画を立てていくことが大切です。

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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。