遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説

遺産分割調停の流れ

遺産分割について相続人同士での話し合いがつかない場合、家庭裁判所における遺産分割調停を利用できます。第三者である調停委員を介した話し合い・合意形成が行われるため、公平な解決ができるでしょう。

ただし、第三者を介するという特殊な方法である以上、納得のいく遺産分割を実現させるためのポイントを押さえることも大切です。

今回は遺産分割調停について詳しく解説します。

遺産分割調停とは

遺産分割調停とは家庭裁判所における調停の1つで、遺産分割について相続人同士で話し合いがつかない場合に利用します。

そもそも調停とは、第三者である調停委員が当事者間の間に入り、話し合いによって公平な解決を図る手続です。当事者同士が顔を合わせることなく、調停委員を介して意見の主張や話し合いが行われます。

遺産分割調停は文字通り遺産分割についての調停手続です。調停委員は相続人全員から事情を聞き、それぞれの主張や希望を考慮した上で、解決策の提示や助言などを行います。

参考:裁判所の調停とは | 公益財団法人 日本調停協会連合会

遺産分割調停の基本事項

遺産分割調停の基本事項について紹介します。

【申立先】

以下のうちいずれかに申し立てをします。

  • 当事者のうち誰か1人の住所地を所在する家庭裁判所
  • 相続人全員の合意によって決められた任意の家庭裁判所

【費用】

被相続人1人につき1,200円です。申立書の所定の欄に金額分の収入印紙を貼付します。また、連絡用の郵便切手も必要です。郵便切手代は申立先によって異なるため裁判所にご確認ください。

遺産分割調停の必要書類

遺産分割調停の申立てに必要となる書類は、被相続人と当事者である相続人の関係によって異なります。

【共通で必要となる書類】

  • 遺産分割調停の申立書
  • 土地遺産目録
  • 建物遺産目録
  • 現金、預貯金、株式等遺産目録
  • 当事者目録
  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 遺産に関する資料(預金残高証明書、不動産登記事項証明書、有価証券写し等)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または戸籍の附票
  • 被相続人の子およびその代襲者ですでに死亡している人がいる場合、その子(または代襲者)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本

【相続人が父母や祖父母など直系尊属(第二順位)の場合】

被相続人の直系尊属にすでに死亡している人がいる場合、その直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本

【相続人が配偶者のみ、または兄弟姉妹およびその甥姪(第三順位)の場合】

  • 被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 被相続人の兄弟姉妹にすでに死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 代襲者としての甥姪がすでに死亡している人がいる場合、その甥姪の死亡の記載がある戸籍謄本

上記以外にも、審理に必要なものとして追加書類を求められることがあります。裁判所からの案内に従って早急な対応をしましょう。

参考:遺産分割調停 | 裁判所

関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説

遺産分割調停の流れ

調停の天秤

続いて、遺産分割調停の流れについて解説します。

必要書類を用意し申立てをする

まずは必要書類を用意します。戸籍謄本や各種証明書など発行に時間がかかる書類もあるため、早めに準備を始めましょう。申立書および添付書類がすべて揃い次第、遺産分割調停の申立てをします。

調停期日通知書が届く

申立てが受理されると調停期日通知書が届きます。調停期日通知書とは文字通り、調停期日(調停が行われる日)に関する書類です。日時や入室する控室などが記載されています。

家庭裁判所で遺産分割調停を行う

指定された調停期日に家庭裁判所へ行き、遺産分割調停を行います。当日の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 調停期日通知届に記載された控室で待機する
  2. 調停の進め方等について説明を受ける(初回のみ)
  3. 呼ばれるまで控室で待機
  4. 自分の番がきたら調停室へ移動し、調停室で意見や主張を伝える。調停委員からの質問があれば回答する
  5. 当事者全員の聞き取りを終えた後、調停について総括を実施。次回の調停期日を調整
  6. 1~5(2を除く)を繰り返す

待合室は分かれており、調停委員による聞き取りも個々に行われるため、基本的には相続人同士の対面はありません。ただし、初回および最後の回は全員が同じ空間で説明を受ける場合もあります。

遺産分割調停の調停期日は4〜7回程度繰り返すのが一般的です。調停期日は1ヵ月〜1ヵ月半ほどの間隔を空けて行われるため、すべて終了するまでに最短でも半年、多くの場合は1〜2年ほどかかります。

【合意に至った場合】調停証書が作成される

当事者間の合意に至った場合は調停証書が作成されます。遺産分割協議書と同じ効力を有するため、調停証書の通りに相続手続きを行いましょう。

【合意に至らない場合】遺産分割審判に移行

話し合いがまとまらず合意に至らない場合、遺産分割審判に移行します。

遺産分割審判とは、裁判官が当事者から提出された書類等を基に妥当と考えられる遺産分割方法を決定する手続です。移行は調停委員の判断によって行われます。

遺産分割調停のポイント

続いて、遺産分割調停を有利に進めるために押さえておくべきポイントを4つ紹介します。

1.「焦る必要はない」を念頭に置く

遺産分割調停を行う上で最も大切なのは、「焦る必要はない」を念頭に置くことです。

遺産分割調停は東京家庭裁判所を中心に「段階的進行モデル」という決められた方法が進め方が採用されています。質問や各種調整などは段階的進行モデルに沿って行われるため、当事者が先回りして何か行う必要はありません。焦らず冷静な姿勢を保ち、質問や指示に落ち着いて応えることが最も重要です。

2.自分の主張を明確にしておく

遺産分割に対する自分の主張を事前に明確にしておく必要もあります。

調停期日当日は、緊張や焦りから意見をほとんど主張できない事態が起こりやすいです。また、「お金に関することだから言いにくい」「欲深いと思われたくない」と考える人もいるでしょう。

しかし、自分の主張を伝えなければ納得のいかない遺産分割になる恐れがあります。自分の意見をしっかり伝えられるよう、事前に主張を明確にした上で、言うべきことはしっかり伝えましょう。

3.相続に関する法的な知識を身につけておく

遺産分割調停の前に、相続に関する法的な知識を身につけておくのが理想といえます。自分の希望や意見をはっきり主張できたとしても、それらが法律に基づいたものでなければ納得を得られず主張が通らないためです。

法定相続分遺産分割の方法寄与分特別受益などの基本的な知識は身につけておいた方がよいでしょう。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説

4.ほかの相続人の主張にも耳を傾ける

遺産分割調停では自分の主張ばかりではなく、ほかの相続人の主張にも耳を傾けることが大切です。

調停で当事者一方の主張がすべて通る可能性はほとんどありません。そして、全員が納得しなければ調停成立ができない以上、相手の主張にも耳を傾け、お互いに譲り合う必要があります。

譲歩の姿勢を見せることで、調停委員の心証が良くなる効果や相手方が別の部分で譲歩してくれる等の効果も期待できるでしょう。

関連記事:【税理士監修】相続財産を巡る兄弟間の生前贈与トラブルの事例と解決方法

遺産分割調停に関するよくある質問

Q&A

最後に、遺産分割調停に関するよくある質問4つを紹介します。

Q.調停期日に欠席するとどうなる?

調停期日は全員の参加が求められますが、欠席者がいても予定通り開催されます

ただし、欠席者がいる状態では調停成立ができません。出席者に対する聞き取りは行われますが、各種調整は次回以降に持ち越しになります。

やむを得ない事情で出席できない場合、他の調停期日は必ず出席するようにしましょう。どうしても足を運べない場合は、電話会議システムの利用や弁護士に依頼するという手段もあります。

なお、裁判所からの連絡に応じず欠席状態を続ける場合は調停不成立となり、自動的に審判へ移行する仕組みです。

Q.相続税の申告期限に間に合わない場合はどうすれば良い?

相続税の申告期限に間に合わない場合、法定相続分や包括遺贈の割合に従って相続をしたとみなして仮の申告・納税を行う必要があります。その後、遺産分割が完了してから修正申告または更正の請求を行います。

申告期限までに遺産分割が終わらない場合でも、無申告はペナルティの対象になるためご注意ください。

関連記事:【税理士監修】遺産相続に期限はあるの?期限切れのリスクと手続きのポイントを解説

Q.被相続人の債務の負担割合も遺産分割調停で決める?

被相続人の債務の負担割合は遺産分割調停で決めるべき内容には含まれません

そもそも、被相続人の債務は法定相続分に応じて分割されるのが前提です。そのため遺産分割の対象にはならないと考えられており、遺産分割調停でも扱われません。

参考:遺産分割調停 | 裁判所

Q.遺産分割調停の当事者から抜ける方法はある?

遺産分割調停の当事者から抜ける方法として、以下の2種類が挙げられます。

手続名

概要

手続の方法

相続分譲渡

相続人が有する相続割合を、他の相続人または第三者に譲渡する

  1. 「相続分譲渡証書」を作成、譲渡人が署名押印する
  2. 譲受人が署名押印をする
  3. 譲渡人の印鑑証明書とあわせて家庭裁判所に提出する

相続分放棄

相続人が有する相続割合を放棄する

放棄された相続分は、他の相続人が各人の相続割合に応じて取得する

  1. 「相続分放棄証書」を作成、放棄を希望する人が署名押印する
  2. 印鑑登録証明書を添付して家庭裁判所に提出する

参考:相続分譲渡について(説明書)|裁判所 – Courts in Japan

参考:相続分放棄について(説明書)|裁判所 – Courts in Japan

どちらも相続放棄と違い、相続人としての地位は失われませんまた、基本的には遺産分割から離脱できるものの、特別に必要な場合は家庭裁判所への出頭を求められる可能性があります。

関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説

遺産分割調停や相続に対する十分な理解が必須

遺産分割調停は遺産分割について相続人同士での話し合いがつかない場合に利用できる制度です。第三者を介することで冷静な話し合いができ、公平な解決が期待できます。

納得のいく遺産分割を実現するためには、十分な自己主張とほかの相続人に対する譲歩の姿勢の両方が必要です。また、調停の場での振る舞い方や必要な知識をつけておくことで、調停を有利に進められる可能性もあります。

特に、相続割合に関する法的な知識や、相続税に関する基本事項の理解は必須です。遺産分割調停に向けて、必要な知識をしっかり身につけましょう。

をしっかり身につけましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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