相続税の納税猶予制度とは?要件や注意点についてわかりやすく解説

農地を相続した際の納税猶予制度について

相続税の納税猶予制度とは、本来払うべき相続税の納付を猶予し、要件を満たし続ければ最終的に免除される特例制度です。この制度の対象には、主に「農地などに関わる相続税の納税猶予」と「非上場に関わる相続税の納税猶予」の2種類があります。

本記事では、そのうちの「農地などに関わる相続税の納税猶予制度」について詳しく解説していきます。

農地を相続した際の納税猶予制度とは?

農地を相続した場合、条件を満たせば納税猶予制度の適用を受けることができます。この制度では、相続した農地で継続して農業を営むことを条件に相続税の納付を猶予し、最終的には免除される可能性もあります

相続税は高額になることが多いため、相続人は農地の一部を売却して納税するといったケースがあります。そのような問題を解決できるのが納税猶予制度の大きなメリットです。この制度を活用することで、相続時の税負担を軽減し、農地の継承を円滑に進めることが可能です。

以下では、納税猶予から最終的には納税免除になる仕組みについて説明します。

事実上の納税免除の仕組み

この制度では、一定の条件を満たせば、納税猶予された税額が最終的に免除される可能性もあります。具体的には、納税猶予を受けた相続人が農業を継続し、適用要件を満たし続けた場合、相続税を支払う義務が免除される仕組みです

農地の維持を促進し、農業の振興を図るために設けられたこの制度は、農業を志す後継者にとって大きなメリットとなります。そのため、相続税の負担を軽減し、持続的な農業経営をサポートする重要な制度といえます。

参考:No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁

納税猶予制度の適用要件

相続税の納税猶予制度を利用するためには、いくつかの適用要件を満たさなければなりません。これらの要件は、被相続人の状況や相続人の要件、さらには相続する農地の条件など多岐にわたります。特に農地は相続税の評価額が高くなりやすいため、適切な手続きを行うことが重要です。ここでは、納税猶予が適用されるための条件について解説します。

被相続人に求められる条件

まず被相続人については、農業経営者としてその農地で実際に農業に従事していたことが前提条件になります。そのうえで、以下のいずれかに該当しなければなりません。

  • 死亡日まで農業を営んでいた者
  • 生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした者
  • 死亡日まで特定貸付けを行っていた者(※市街化区域外の農地に限る)

※市街化区域外の農地に限られます。

相続人に求められる条件

相続人については、引き続きその農地で農業を営むことが条件となります。相続人が自身で農業を行うか、または適切な農業経営者に農地を運営させることでこの要件をクリアできます。具体的な条件としては、以下のいずれかに該当する者です。

  • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後、引き続き農業経営を行う者
  • 生前一括贈与を受けた受贈者
  • 相続税の申告期限までに特定貸付けを行った者(※市街化区域外の農地に限る)

さらに、相続人が相続税の納付猶予を受けるためには、農業の継続に対する合理的な計画を提示することが望ましいとされています。なお、一度でも農業から離れてしまうと、納税猶予が取り消されてしまう可能性があるため注意が必要です。

関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説

対象となる農地の条件

対象となる農地は、農地として認定されていることが条件となります。具体的には、農業利用を目的として評価された土地であること、または一般的な宅地としての評価に比べてかなり低い評価額がつけられることが求められます。

このほかの条件としては、被相続人が農業を行っていたまたは特定貸付けを行っていた農地(市街化区域外の農地に限られる)で、次のいずれかに該当するものと掲示されています。

  • 被相続人から相続により取得した農地で遺産分割がされているもの
  • 贈与税納税猶予の対象となっていたもの
  • 相続の年に被相続人から生前一括贈与を受けたもの

また、農地の面積や種別が条件に含まれる場合があります。地域ごとに具体的な要件が定められているため、事前に規制や基準を確認することが重要です。

参考:農地を相続した場合の課税の特例(相続税納税猶予制度)|農林水産省

生産緑地への納税猶予制度の適用

生産緑地とは、市街化区域内にある農地のうち一定の条件を満たし、農業を継続することを前提に指定された土地のことです。生産緑地に指定されると、税制上の優遇措置を受けることができます。この生産緑地についても一定の条件を満たせば相続税の納税猶予制度が適用されます

生産緑地の納税猶予制度の適用を受けるためには、相続した生産緑地での農業の継続を証明する必要があります。その際は、農業経営に関する計画書の提出や実際の農作業の実施が求められます。また、相続人が農業の知識や技術を持っていることも認可を得る上で重要となります。

なお、生産緑地における相続税の納税猶予制度の適用条件は下記の通りです。

  • 相続した農地が生産緑地として指定されていること
  • 相続人が引き続き農業を継続すること
  • 相続税の申告期限までに納税猶予の申請を行うこと

これらの適用条件を満たすことで、生産緑地としての農地部分にかかる相続税の納税が免除されます。ただし、相続人が売却をしたり農地以外に転用をした場合は納税義務が発生します。

参考:生産緑地制度の概要|国土交通省

相続税の納税猶予制度で猶予される税額について

相続税の申告書

相続税の納税猶予制度では、相続をする取得金額によって税率が異なります。取得金額ごとの税率と控除額は下記の通りです。

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

1,000万円超から3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超から5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超から1億円以下

30%

700万円

1億円超から2億円以下

40%

1,700万円

2億円超から3億円以下

45%

2,700万円

3億円超から6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

引用:No.4155 相続税の税率|国税庁

上記の取得金額に相応する税率を元に納税猶予額を算出します。この納税猶予額の計算式は以下のようになります。

法定相続分に応ずる取得金額-(農地の農業投資価格×相続税の税率)=納税猶予額

たとえば、通常の相続税額は1,000万円、相続した農地の農業投資価格が2,000万円だった場合の計算は下記のようになります。

1,000万円-(2,000万円×0.15ー50万円)=750万円

これにより、本来は1,000万円納めるべき相続税が750万円になります。

農地の農業投資価格および相続税の詳しい税率については、国税庁のホームページでも確認できます。

参考:財産評価基準書|国税庁

相続税の納税猶予制度の手続き

相続税の納税猶予制度の適用を受けるためには、相続税の申告後、期限内に納税猶予の申請を行います。そしてこの納税猶予制度を利用し続けるためには、その後も継続届出が必要になります。ここでは相続税の納税猶予を受けるための手続きについて紹介します。

相続税の申告手続き

納税猶予制度を利用するためには、まず相続税の申告が必要です。申告書には相続した農地や生産緑地などの詳細情報を記載し、さらに納税猶予を受ける意思があることを明記します。

また、申告書には農業継続の計画書や現在の農業経営の詳細を証明する関連書類を添付します。この申告書の提出期限は、被相続人の死亡の翌日から10ヵ月以内と定められています。必ず期限内に提出をしましょう。

納税猶予期間中の継続届出

納税猶予制度を利用した場合、相続人には継続届出を行う義務が生じます。この届出は相続人が農業を継続していることを証明し、納税猶予制度を適用し続けるための重要な手続きです。具体的には、農業経営の状況を定期的に報告することで、税務署に現状を確認してもらえる仕組みとなっています。

継続届出は相続税の申告期限の翌日から3年毎に提出する必要があり、この手続きを行わなかった場合、納税猶予が取消されるリスクがあります。納税猶予制度を正しく利用し続けるためには、期日を守り届出を行うことが不可欠です。

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納税猶予制度を利用する際の注意点

納税カレンダーのイメージ

納税猶予制度を活用するためには、いくつかの注意点があります。ここでは納税猶予制度を利用する際の注意点について解説します。

担保を提供しなければならない

納税猶予制度を利用する際には、一定の担保の提供が義務付けられています。これは相続税の納税を猶予する代わりに、相続人が保有する資産の一部を担保として税務署に提供することを意味します。

税務署としては、相続人が猶予期間中の要件を守らなかった場合に相続税を回収できるようにするという意図があります。

具体的には、農地や生産緑地など納税猶予の適用を受ける相続財産の一部を担保として提供することが求められます。万が一、相続人が農業を辞めたり規定に従わなかったりした場合には、税務署が担保権を行使し、猶予されていた相続税と利子税を徴収することになります。

農業を辞めると納税猶予が取り消される

納税猶予制度の利用中に相続人が農業を辞めてしまうと、一度適用された納税猶予が取り消される可能性があります。これは、農業を続けることがこの制度の大前提であるためです。農業を行わない場合、制度の趣旨から外れてしまうため、すぐに納税が求められることになります。

このため、相続人が農業に従事し続けることが大切です。もし、他の職業に転職したり農業を営む意志が薄れてしまったりした場合には、早めに税務署や税理士に相談しましょう。事前に対策を講じておくことで突然の納税負担を回避し、農地の有効活用や第三者による農業経営の継続を検討することもできます。

納税猶予の解除時に利子税がかかる

納税猶予が解除されると、猶予されていた税額に加え、利子税が発生することがあります。これは納税猶予期間中に支払いを先延ばしにしていた分に課せられる利息のようなものです。

たとえば、農業を辞めてしまったり継続届出を出さなかったりなど納税猶予の条件を満たせなくなると、猶予されていた相続税を一括で支払わなくてはいけませんその際、利子税も一緒に支払う必要があるため、思った以上に負担が大きくなることがあります。

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まとめ

相続税の納税猶予制度は、農地や生産緑地を相続した際に納税負担を軽減できる特例制度です。相続人はその土地で農業を続ければ納税が猶予または免除されるため、相続税が大きくなる場合はぜひ検討したいものです。

適用を受けるためには申告の手続きが必要で、農業の継続や対象農地等の条件を満たす必要があります。また継続届出を行うことも義務付けられています。

注意すべきは、農業を辞めると納税猶予が取り消され、利子税とともに納税が発生してしまう点です。制度を活用する際は、継続的な農業経営と適切な手続きが求められます。

また、農地の相続においては納税猶予制度のみならず、相続の仕方にも工夫が必要です。土地の相続には多額な相続税が発生する可能性があるため、正しい税知識と対策がポイントになります。そのためには税務に詳しい税理士に相談することが最適です。税理士であれば、相続税の納税における課題を洗い出し、より納税額を引き下げるプランをアドバイスをしてくれるでしょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。