【税理士監修】相続税の障害者控除を解説。適用要件や計算方法、申告不要となるケースまで

更新日:2023.9.8

相続税の障害者控除とは、相続人が障害者である場合に適用される相続税の控除制度です。相続税の額から一定額を控除できるため、相続税の負担を小さく抑えられます。

本記事では相続税の障害者控除について、適用要件や計算方法などの基本的な内容を解説します。

なお、もし相続税の手続きをお急ぎであれば、専門家である税理士に相談・サポートを依頼することをおすすめします。

相続税の障害者控除とは

相続税の障害者控除とは、相続人が85歳未満の障害者であるとき、相続税の額から一定の金額を差し引く制度です。相続人の税負担を軽減させる目的で設けられています。

障害者控除は、対象となる相続人が満85歳になるまでの年数1年につき10万円で計算します。なお、特別障害者の場合は1年につき20万円と、条件によって計算に用いる金額が異なる点に注意が必要です。具体的な計算方法および計算例は後述します。

障害者控除の適用要件

障害者控除の適用を受けられるのは、以下4つの要件すべてを満たす場合です。

  • 法定相続人であること
  • 相続、または遺贈により財産を取得していること
  • 障害者であること
  • 日本国内に住所があること

それぞれの要件について詳しく解説します。

法定相続人であること

障害者控除の適用を受けられるのは法定相続人のみです。法定相続人とは民法で定められた相続人で、被相続人の配偶者および特定の血族が該当します。

被相続人の配偶者(内縁の場合を除く)は常に法定相続人となります。それ以外の法定相続人は関係性によって順位が設定されており、もっとも高い順位の者のみが法定相続人となるためご注意ください。具体的な順位は以下のとおりです。

第1順位子(すでに亡くなっている場合は孫)
第2順位親(すでに亡くなっている場合は祖父母)
第3順位兄弟姉妹(すでに亡くなっている場合は甥姪)

もし配偶者と第1順位である子がいる場合、親および兄弟姉妹は法定相続人になれません。また、被相続人が遺言のなかで障害者である友人を相続人に指定している場合も、その友人は法定相続人ではないため障害者控除の適用対象外になります。

相続、または遺贈により財産を取得していること

相続税の障害者控除を適用できるのは、相続または遺贈により財産を取得した場合のみです。

相続とは亡くなった被相続人の財産を、相続の権利を有する別の人に移転することです。権利を有する人とは法定相続人を意味します。

一方で、遺贈は遺言によって財産を別の人に譲る行為を意味します。遺贈の場合、法定相続人以外にも財産の移転が可能です。

障害者本人ではなく扶養義務者が相続または遺贈を受け、障害者本人に一切の相続等が行われなかった場合、控除の適用を受けられません。相続を受けていない人はそもそも相続税の課税対象ではないため、障害者控除を適用できる余地もないのです。

また、障害者控除の適用を受けられるのは法定相続人のみです。被相続人に子と妹がいて、そのうち妹が障害者と仮定します。この場合、法定相続人として認められるのは子のみです。仮に、遺言のなかで「子と妹の両方に財産を遺贈する」と明記していた場合でも、妹は法定相続人ではないため障害者控除の適用対象外となります。

障害者であること

障害者控除という名の通り、制度の適用を受けられるのは法定相続人のうち障害者に当てはまる人のみです。

相続税の計算において、障害者は一般障害者と特別障害者の2種類に分けられます。例えば、精神障害2級の場合は、一般障害者として控除額の計算を行います。精神障害1級の場合、特別障害者として判断されます。

ほかにも一般障害者と特別障害者を判定する際に用いる基準について、大まかな内容を表にまとめました。

 一般障害者特別障害者
身体障害者手帳に記載された程度3~6級1または2級
精神障害者保健福祉手帳に記載された障害等級2または3級1級
戦傷病者手帳に記載された内容恩給法の第4~6項症恩給法の第3項症まで

※その他の要件については、国税庁のホームページからご確認ください。

国税庁ホームページ|一般障害者の範囲 特別障害者の範囲

なお、相続開始時点で障害者手帳の交付を受けていない場合でも、手帳の交付を申請中であれば障害者控除の適用を受けられます。また、医師の診断書により、相続開始時点で手帳に記載される程度の障害があると認められた場合も適用対象です。

日本国内に住所があること

相続や遺贈による財産の取得時に、日本国内に住所があることも、障害者控除の適用を受けるための要件として定められています。国外に住所がある場合は、原則として障害者控除の対象外です。

また、財産取得時に日本国内に住所を有していても、一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合は適用されません。一時居住者・外国人被相続人・非居住被相続人の定義については、国税庁ホームページをご確認ください。

No.4138 相続人が外国に居住しているとき|国税庁

障害者控除の額、計算方法

相続税の障害者控除の額を計算する方法を解説します。具体的な例を用いた計算の流れも解説しているため、障害者控除の額を計算する流れをイメージとしてご覧ください。

一般障害者の場合

まずは一般障害者の計算方法です。一般障害者の場合、満85歳になるまでの年数1年につき、10万円で計算します。具体的な計算式は以下のとおりです。

控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
※平成27年の改正以前は、年数1年につき6万円

なお、年数の計算で1年未満の期間があれば、その部分は切り上げて1年とします。例えば相続開始時の年齢が20歳6ヶ月の場合、85歳-20歳6ヶ月は64歳6ヶ月です。6ヶ月は切り上げて計算するため、控除額の計算では65歳を用います。

特別障害者の場合

特別障害者の場合、満85歳になるまでの年数1年につき、20万円で計算します。具体的な計算式は以下の通りです。

控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
※平成27年の改正以前は、年数1年につき12万円

特別障害者の控除額計算においても、一般障害者の場合と同様、年数の計算で1年未満の期間は切り上げて計算します。

相続税の障害者控除の計算例

相続税の障害者控除の計算例を、一般障害者の場合と特別障害者の場合の2パターン紹介します。

まずは一般障害者の場合の計算例です。今回は相続開始時点の年齢を49歳11ヶ月と例とします。1年未満の期間は切り上げて1年とするため、計算で用いる相続開始時の年齢は50歳になります。

(85歳-50歳)×10万円=35歳×10万円=350万円

この計算式に沿って、相続税から350万円を控除できます。

続いて特別障害者の場合の計算例です。相続開始時点の年齢を61歳2ヶ月とします。1年未満の部分は長さに関係なくすべて切り上げて計算するため、今回の例において計算で用いる相続開始時の年齢は62歳です。

(85歳-62歳)×20万円=23歳×20万円=460万円

障害者控除の制度を用いることで、控除前の税額から460万円を差し引けます。

障害者控除を適用することで申告不要になるケース

障害者控除を適用した結果、相続税の課税価格の合計額が基礎控除以下になる場合、相続税の申告が不要です。

相続税には障害者控除以外にもさまざまな控除制度が存在します。そのうち小規模宅地等の特例および配偶者の税額軽減制度を用いた結果、相続税がゼロ円になった場合、相続税の納付がなくても申告の義務が存在します。この2つの制度には申告要件といって、適用を受けるためには相続税の申告が必要という決まりが存在するためです。

一方、障害者控除を適用した結果、相続税の課税価格の合計額がゼロになった場合は申告不要となります。

なお、相続税の基礎控除額は、以下の式で計算します。

基礎控除額=(3,000万円+600万円×法定相続人の数)

法定相続人の数によって相続税の基礎控除額が変わるため、申告不要の判断をする際は注意が必要です。

85歳以上の相続人は適用対象外となる

障害者控除は前述したように、対象となる相続人が満85歳になるまでの年数を用いて計算します。すなわち障害者控除の適用を受けられるのは満85歳未満の場合のみです。85歳以上の相続人は、障害者に該当する場合でも適用対象外となります。

障害者控除の枠を使いきれない場合

障害者控除は対象となる相続人が満85歳になるまでの年数を使って計算します。そのため、相続開始時点の年齢によっては、かなり大きな額の控除を受けられる制度です。

一方で、控除額が大きくなりすぎてしまい、枠を使いきれないケースもあります。障害者控除の額が本人の相続税額より大きい場合は、その相続人の扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。

扶養義務者は、障害者の配偶者・直系血族・兄弟姉妹、もしくは3親等以内の親族のうち一定の要件を満たす者が該当します。相続人である障害者本人だけで使いきれなかった控除額は、そのまま扶養義務者の相続税の額から差し引きます。

扶養義務者が複数人いる場合、以下いずれかの方法で控除額の決定を行うのが一般的です。

  • 扶養義務者の全員で協議を行い、控除額の配分を決める
  • 扶養義務者全員で相続税額もしくは分割割合を用いて控除額を按分する

扶養義務者が障害者控除を使っても枠を使いきれなかった場合、余った控除額は二次相続に残しておくことができます。

なお、障害者控除を適用できるのは、前述したように障害者本人が相続または遺贈により財産を取得している場合のみです。障害者本人は相続・遺贈による財産の取得をしていなければ、扶養義務者に相続税が発生している場合でも、障害者控除の適用を受けられません。

まとめ

相続税の障害者控除とは、相続人が満85歳未満の障害者である場合に適用を受けられる控除制度です。「法定相続人である・相続または遺贈により財産を取得している・障害者である・日本国内に住所がある」という4つの要件すべてを満たす必要があります。

障害者控除は相続税の負担を大幅に軽減できる可能性がある制度です。一方で、控除制度の適用を受けるには、細かな要件を満たす必要があります。また、計算にも細かなルールが存在するため、正しい知識および深い理解が求められます。

障害者控除以外にも、相続税は厳密なルールや複雑な計算が多いため、当事者のみで対応するのは容易ではありません。相続税の計算および申告を正しく行うためには、専門家のアドバイスおよびサポートを受けることをおすすめします。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。