親族の財産を相続した場合、相続税の申告が必要となる場合があります。相続税の申告後、しばらく経ってから税務調査が実施される場合もあることから、調査がくるかどうか不安に思う方も多いのではないでしょうか。しかし、相続税の税務調査がいつ頃来るのか、おおよその時期を把握していれば対策することは可能です。そこで、今回は相続税の税務調査が実施されやすい時期や調査期間、税務調査の対象範囲などについて詳しく解説していきます。
目次
相続税とは
相続税とは、親族が亡くなることで預貯金や不動産の相続が発生した際に、相続財産の額に対して課税される税金です。相続財産の一部を税金として国に納めるため、相続税には「資産の再分配」としての役割があります。また、相続した財産額が多いほど相続税の額も大きくなるため、日本全体の世帯における「格差の固定化を防止する」という機能も、相続税の重要な役割です。
なお、相続税は相続が発生したら必ず発生するというわけではありません。相続税には基礎控除額が設定されており、相続財産の額が基礎控除額を上回った場合に発生します。そのため、財務省が公表しているデータによると令和元年に亡くなられた方のうち、実際に相続税の申告が必要なケースは全体の約8%という結果でした。
相続税の税務調査の時期
相続税の税務調査の時期は申告後の1〜2年間が目安となる
相続税の税務調査は申告してからすぐに実施されるわけではありません。相続税の税務調査が実施される時期の目安は、申告書を税務署に提出してから1~2年後となっています。また、相続税の申告期限から換算して5年を経過すると、原則として相続税の税務調査は行われません。なぜなら、相続税の申告期限から5年を経過すると、時効が成立するためです。
つまり、相続税の申告を行ってから2年を経過すると税務調査の可能性が低くなり、申告期限から5年経過すれば基本的には安心できるということになります。
税務調査が行われる季節は概ね8〜11月頃が多い
相続税の税務調査が行われる季節として最も多いのが、8~11月頃です。この時期に税務署から税務調査の通知があり、日程が決まります。その後、年内には税務調査が終了するのが一般的な流れです。
この時期に相続税の税務調査が実施されやすい理由には、税務署の人事異動が関係しています。税務署の人事異動が7月に行われるため、人事異動や業務の引継ぎが落ち着いた8月頃から相続の税務調査がスタートするという流れです。ただし、8~11月に行われやすいというだけで、もちろん例外もあるため油断はできません。
税務調査は調査自体で丸1日程度、1〜3ヶ月で調査完了
相続税の税務調査自体は、原則として丸1日で終了します。ただし、税務調査を行ったことで新たな問題が発覚した場合や、税務署で追加の調査が必要となるケースもあるため、一概にはいえません。目安として、相続税の税務調査が完了するまでには1~3か月程度の期間を要すると考えておけばいいでしょう。
相続税の申告期限
申告期限から5年経過すれば時効となる
相続税の申告が必要な場合、相続の発生後10か月以内に申告しなければなりません。例えば、1月1日に相続が発生した際の申告期限は、10月1日ということになります。そして、原則として相続税の申告期限から5年を経過すれば時効が成立するため、税務調査が行われる心配はないといえるでしょう。
悪質な脱税などの場合は7年に延長される
上述のとおり相続税の申告期限から5年を経過すれば時効が成立します。そのため、税務署に追加で相続税の納付をするよう言われたとしても納税する法的義務はありません。しかし、脱税などの悪質な行為が認められるケースでは、相続税の時効期間が7年に延長されるため注意しましょう。
一般的には3年を経過すれば税務調査はほぼ来ない
相続税の税務調査が行われる可能性が高いのは、申告してから1~2年後ということは既に述べました。そのため、相続税の申告をしてから3年を経過すれば、税務調査が実施される可能性はかなり低いとされています。相続税の税務調査は申告後もしばらく安心できないため、いつ税務調査の対象となっても問題のないよう、しっかり準備しておくことが重要です。
相続税の税務調査の対象になる人物とは
相続した遺産が多額であるにもかかわらず相続税の申告が少ない
相続税の税務調査の対象になりやすい方の特徴として、相続した財産の額に対して申告額が少ない場合が挙げられます。税務署は、税務調査の対象を選定するために独自のリストを作成しており、多額の相続財産を所有している富裕層をチェックしています。このリストは、不動産や高級車などの購入履歴や、株式など有価証券の取引履歴などの情報をKSK(国税総合管理)システムに蓄積することで作成しているそうです。
そして、システムに蓄積されたデータをもとに資産総額の予想を立て、その予想と申告内容に差が生じている場合に税務調査の対象となる可能性があります。
相続人が自身で相続税の申告を行っており税理士が関与していない
相続税の申告には、15種類以上の書類を提出する必要があります。このうち、第1表の申告書下部に税理士名を記入する欄があるのですが、この欄が空白になっていると相続人が自分で申告書の作成をしたことが判明してしまうのです。税理士の関与なく申告している場合、ミスがあってもおかしくないと判断されてしまうため、税務調査の対象になりやすいといえます。
提出した申告書の計算が間違っている
提出した申告書の計算が間違っているなど、内容に不備があった場合には税務調査の対象となる可能性があります。相続税の申告期限は相続が発生してから10か月以内となっており、期限の間際になって準備を始めると計算ミスが発生しやすくなるため注意が必要です。相続税の申告内容をしっかり確認できるよう、余裕を持ったスケジュールを設定しましょう。
そもそも相続税の申告を行っていない
相続税の申告を行う必要があるにも関わらず、申告をしていない「無申告」の場合も、税務調査が入る可能性が高いといえるでしょう。「申告を行わなければ、税務署に相続が発生したことはバレない」と考える方もおられるかもしれませんが、死亡届を提出したら税務署に連絡が入ることになっています。実際、無申告の方に対して毎年1,000件程度の税務調査が実施されているため、無申告であることを隠すのは不可能といえるでしょう。
相続税の税務調査の流れ
税務署からの連絡・調査日程の調整
相続税の税務調査の対象となった場合、まずは税務署から相続人に対して連絡が入ります。もしくは、相続税の申告を代理した税理士に連絡が入り、税務調査を実施する日程を調整します。税務調査当日に確認したい資料などの指示もあるため、税務調査当日までに準備しておきましょう。
実地調査
税務調査官が被相続人の自宅などを訪問し、実地調査が行われます。相続税の税務調査で対象となるのは「相続人全員」であり、可能な限り相続人全員の立会いを求められる場合がほとんどです。また、実地調査の立会いを税理士にも依頼することができるため、対応に不安がある方は税理士への依頼も検討することをおすすめします。
実地調査では相続人に対してさまざまな質問が行われ、隠している相続財産がないかをチェックされます。資料を隠そうとすると不信感を抱かれてしまうため、提示を求められた際はすぐに対応するようにしましょう。
税務署の調査検討
実地調査で確認した内容をもとに、税務署で調査結果を検討します。相続財産が高額で多岐に渡る場合など、内容が複雑な場合には調査結果の検討までに1か月以上の期間を要する場合もあります。また、調査を進めていくなかで新たな疑問点や確認事項が出てくる場合もあるため、税務署から連絡があった際は慎重に対応しましょう。
税務調査の完了
相続税の税務調査が完了すると、相続人や税理士に対して調査結果の報告が行われます。稀に申告内容に誤りがなかったという「申告是認」の結果となる場合もありますが、実地調査が行われた場合には何らかの誤りが見つかることがほとんどです。税務署からの指摘に不服がない場合は、指示に従って修正申告を行う必要があります。
修正申告
修正申告とは、相続人が自ら申告内容の修正を行う手続きのことを指します。税務署の指示に従い、なるべく早く修正申告を行いましょう。なお、税理士に税務調査の立会いを依頼していた場合、修正申告も代理で行ってもらうことが可能です。
相続税の税務調査はどこまで調べるのか
収入
相続税の税務調査では、被相続人の収入状況について細かくチェックされます。被相続人が会社員であったならば源泉徴収票、個人事業主であったならば確定申告書から収入状況を知ることが可能です。それらの資料や相続人へのヒアリング事項を申告内容と照らし合わせ、不備がないか調査します。
不動産
被相続人が不動産を所有していた場合、登記簿上の名義人を変更する「相続登記」が必要です。登記簿は税務署も確認することができるため、被相続人名義の不動産がきちんと申告できているかを調査されます。
金融資産
預貯金などの現金だけでなく、株式などの有価証券も調査対象です。一部の株式などは電子化されていることや、通帳がないタイプの証券口座もあるため、相続人がこれらの金融資産の存在に気付いていないケースもあります。また、株式などの金融資産は評価方法が複雑であり、過少申告を疑われる場合もあるため注意が必要です。
生命保険
民法上では生命保険は相続財産ではありませんが、相続税の計算上は相続財産とみなされるため、課税対象です。税務署は生命保険金の受け取りを把握できるため、受け取った生命保険金についても正しく申告できているかを調査します。
名義預金
名義預金とは、子どもや孫の名義で銀行口座を開設しているが、実質的に管理しているのは被相続人である預貯金のことを指します。相続税対策のために子どもの名義で口座を開設し、その口座に財産を移すことで生前贈与を行おうとする方がいますが、この場合は生前贈与が成立しません。たとえ被相続人名義の口座でなくとも、名義預金の場合は相続税の課税対象となるため注意が必要です。
親族間の預貯金の移動
贈与額が年間110万円を超えた場合、贈与税の課税対象となります。また、被相続人の死亡前から3年以内に受けた贈与は、贈与がなかったものとして相続財産に加算される「生前贈与加算」という規定もあるため注意が必要です。このような規定があるため、相続税の税務調査では親族間で預貯金の移動がないか調査を行います。
個人の借金の肩代わり
被相続人が生前に個人の借金を肩代わりしていた場合、肩代わりした額を贈与したとみなされます。また、借金を肩代わりした時期が死亡日から3年以内の場合、生前贈与加算となるため相続税が課税されることとなり、3年以上前であれば贈与税が課税される場合があるため注意が必要です。
相続税の税務調査で指摘を受けるとどうなるのか
指摘を受けた場合は修正申告を行う
相続税の税務調査の結果、申告内容に誤りがあった場合には修正申告を行うことになります。修正申告とは、提出した申告書の内容を正しい額に修正する手続きのことです。また、相続税の申告を行っていなかった場合には期限後申告を行う必要があります。
修正申告で追加納税する場合は過少申告加算税や延納税がかかる
修正申告によって相続税の追加納付が必要となった場合には、相続税に加えて過少申告加算税や延滞税も納付しなければなりません。過少申告加算税は本来必要な相続税を納付していなかったことによるペナルティであり、延滞税は本来必要だった相続税の納付が遅れたことによるペナルティという意味合いを持ちます。
相続税を申告していなかった場合は無申告加算税がかかる
そもそも相続税の申告を行っていなかったという場合には、過少申告加算税に加えて無申告加算税も納付しなければなりません。相続税の申告内容に誤りがあった場合よりも多くの税金を支払わなければならないため、相続税の申告が必要か迷った際は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
悪質なケースの場合は重加算税がかかる
多額の相続財産があることを意図して隠していた場合など、悪質なケースと判断された場合には重加算税が課せられます。追加で納付が必要な相続税に対し、相続税の申告を行っていた場合には原則35%、無申告の場合は原則40%もの税金が課せられるため、非常に重いペナルティといえるでしょう。意図的に申告していない相続財産があるという方は、できる限り早く修正申告を行うことが重要です。
相続税の税務調査に備えたい場合には専門家に相談も検討
今回は、相続税の税務調査が行われる時期や調査期間、税務調査ではどこまで調べるのかといった論点についてご紹介してきました。相続税の税務調査が実施された場合、ほとんどの場合は修正申告や追加の納税が必要となります。過少申告加算税や延滞税などの支払いを避けるためにも、正確な申告を行うことが重要です。相続税の税務調査で対象にならないか不安という方は、ぜひ専門家への相談を検討してみてください。